名演!《リカード・ボサ》のリー・モーガン
2021/02/10
ハンク・モブレイの諸作の中でも、特に人気の高い『ディッピン』。
このアルバムの中では、特に2曲目の《リカード・ボサ(・ノヴァ)》の人気が高い。
しかし、この演奏の本当の主役はトランペットのリー・モーガンなのかもしれない。
《リカード・ボサ》は、モブレイの「名演」であることが通説となっているようだが、それは魅惑的なテーマの旋律ゆえではないだろうか?
肝心のアドリブに耳を傾けてみよう。
モブレイのソロ、悪くはない。
しかし、並の出来だと思う。
もっと素晴らしいモブレイのソロは、他にもたくさんある。
もちろんお話にならないほどにヒドいアドリブではないが、いまひとつ「言いたいこと」の内容が整理しきれていないような気がしてならない。
特になにがしかの感情を訴えかけるには乏しい内容のような気がするし、とりわけ、この演奏のモブレイが素晴らしいから、『ディッピン』というアルバムが名盤なのだと言うには、ちょっと苦しいものがある。
かたや、リー・モーガン。
メリハリの効いた、なんて雄弁なトランペットなんだろう。
「落としどころ」を憎たらしいぐらいに心得たソロの展開には、分かっていても泣かされる。
このアルバムが《リカード・ボサ》ゆえの人気だとしたら、それはテーマのメロディに負うところが大きいのでは?
名盤とされているのは、決してモブレイのソロが快心の出来だからということではないと思う。
テーマの旋律は、たしかに琴線に触れるものがある。
しかし、かたやアドリブの内容を耳で追いかけると、ソロにおいて素晴らしいのはリー・モーガン、次いでピアノのハロルド・メイバーンだということがよく分かるだろう。曲の最良の部分を引き立てている。
そう、このアルバムの《リカード・ボサ》は、「名演」ではなく「名曲」なのだ。
もちろん、だからといって、それが良くないと言っているわけではない。
個人的には、このアルバムに収録されている曲では、むしろ、《ザ・ディップ》のほうに心が躍る。
心憎い転調と曲の展開。懐かしのジャズ・ロック・テイストなリズム。モブレイのソロも、こっちのほうがゴキゲンなのではないか?
album data
DIPPIN' (Blue Note)
- Hank Mobley
1.The Dip
2.Recado Bossa Nova
3.The Break Through
4.The Vamp
5.I See Your Face Before Me
6.Ballin'
Hank Mobley (ts)
Lee Morgan (tp)
Harold Mabern Jr. (p)
Larry Rideley (b)
Billy Higgins (ds)
1965/06/18
記:2002/04/16
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