坂道のアポロン/試写会記

   

巧くまとまっている

ほぼ、アニメの通りの内容だった。

アニメも、ほぼコミックの内容通りだったので、映画版『坂道のアポロン』は、原作に忠実な内容となっており、アニメ、もしくはコミックで感動した人は、安心して観れるんじゃないかと思う。

もちろん、あの「文化祭」のシーンは、やっぱりコミックでも、アニメでも、映画でも表現スタイルが変わってもいいね~。

文化祭のエピソードが好きな人は、ぜひ公開されたら映画館に足を運ぼう!

もちろん、コミックでいえば9巻におよぶ内容を上映時間2時間にまとめているわけなので、「あのエピソードがない」、「もう少しここのところを深堀りしてほしい」というような各論での不満も出てくるかもしれない。

しかし、『坂道のアポロン』という作品が持つテイストを損なうことなく、大きな流れとしてはきちんとまとまっているのではないかと感じた。

中川大志バージョンの千太郎

個人的にもっとも懸念していたのは、川渕千太郎を演じる中川大志だ。

試写状の写真を見るかぎりでは、あの大柄な千太郎を中川大志が演じるには、ちょっと線が細いのではないかと思ったのだ。

しかし、それは杞憂だった。

たしかに、静止している写真というビジュアルの1枚か2枚を見る限りでは、過去の『南くんの恋人』のような役柄のイメージも手伝って(ビジュアル的には「第二の福士蒼汰」のような)、ちょっと千太郎とは違うんじゃないかな?と思ったものだが、実際、映画で「動く千太郎」を観ると、違和感はまったく感じない。

コミックやアニメの千太郎を、もう少し太いオーラを放つ頼りがいのあるタイプだとすると、中川大志が演じる千太郎は、元気いっぱいなヤンチャ坊主というキャラ作りで、千太郎のイメージを壊すことなく、むしろこちらのほうが高校生っぽいんじゃない?という存在感を出していると思う。

オリジナルのジャズを聴きたい人は

さて、この作品で繰り返し演奏されている2曲に、《モーニン》と《マイ・フェイヴァリット・シングズ》がある(《いつか王子様が》も良い感じだけどね)。

もし、この映画を観て、実際に本場の演奏を聴いてみたいと思う人のために、おススメのアルバムを紹介しよう。

《モーニン》は、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの『モーニン』がおすすめ。

モーニン

参考記事:モーニン/アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ

劇中で、ピアノの西見薫が、律子の父が営むレコード屋で購入し、何度も聞き返しながら採譜をしていたアルバムでもある。

《マイ・フェイヴァリット・シングズ》は、なんといってもジョン・コルトレーンの『マイ・フェイヴァリット・シングズ』だろう。

マイ・フェイヴァリット・シングス

参考記事:マイ・フェイヴァリット・シングズ/ジョン・コルトレーン

コルトレーンは生涯にわたり、このアルバムを何度も演奏していたが、その初演のバージョンが収録されているアルバムが『マイ・フェイヴァリット・シングズ』だ。

演奏を重ねるごとに、どんどん演奏内容が過激になってゆき、晩年は曲を破壊しているかのような演奏を繰り広げるが、この曲のエッセンスと輪郭を的確につかめるのが初演のバージョンだろう。

ほか、ディーン・フジオカ演じる淳兄ぃがクラブで歌った《バット・ノット・フォー・ミー》が気になる人は、チェット・ベイカーの『チェット・ベイカー・シングズ』を聴いてみよう。

淳兄ぃが歌ったのとほとんど変わらない「まんま」の歌が楽しめるはずだ。

チェット・ベイカー・シングズ

参考記事:チェット・ベイカー・シングズ/チェット・ベイカー

もちろん、ジャズの知識が皆無でも楽しめる「青春」映画ゆえ(「ジャズ」映画ではなく)、このような予備知識がなくとも、映画版『坂道のアポロン』は十分に楽しめるはずだ。

もっとも、この映画を観て、「ジャズに興味を持った!」という人は、このサイトには、いろいろジャズについてのことを書いているので、折に触れていろいろなページをランダムにご覧になってもらえると嬉しいです。

最初は、この記事がおすすめ!
>>初心者向けジャズ超入門・おすすめベスト10!宇宙一わかりやすい!

『モーニン』や『マイ・フェイヴァリット・シングズ』の両方の解説をしています。

おそらくは、劇場公開が始まれば、中川大志ファンの女子が押し寄せそうな気がするが、ジャズマニアの人にも見てもらいたいと思う。
そして、演奏の感想も聞いてみたい。

《モーニン》のピアノに割り込んでくるドラム、トランペットに咄嗟に絡みはじめるむ中村梅雀のウッドベースなど、荒々しいけれどもスリリングな瞬間がいくつもあるんだよね(それはアニメも同様だけど)。

ちなみに、ウッドベースを弾くレコード屋店主(律子の父)を演じる中村梅雀の演奏は、もしかしたら“弾きパク”をしているだけかもしれないが、とはいえ中村梅雀氏は、歌舞伎役者でありながらもエレクトリック・ベース奏者でもある。

ジャコ・パストリアスの熱心なファンだということは、ジャコ・ファンの間では有名な話。

単に趣味で弾いているだけではなく、CDも出しているからね。

だから、エレキ専門ではあるけれども、ウッドも弾けるんじゃないかな。

残念ながら、試写を一回観ただけでは、彼がベースを弾いている短いシーンだけでは、「弾きパク」なのか、実際に弾いているのかは判別がつかなかった……。

記:2018/01/17

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>>坂道のアポロン 2018/03/10(土)全国ロードショー

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