プレイズ・ドメニコ・スカルラッティ/エンリコ・ピエラヌンツィ
キース・ジャレットのピアノ表現とECMの音が不可分なように、エンリコ・ピエラヌンツィのピアノとCam Jazzの音も、切っても切り離せない関係なのではないかと思う。
音の芯が太く、重量感のあるピエラヌンツィのピアノ。
しかし、だからといって、ブルーノートのように「バシン!」とアタックの強い録音でピアノの音を捉えるのではなく、もっと自然な形で残響音を活かしている。
かといって、ECMのように演奏者の隣に置いたピアノの弦が共鳴して発する倍音までをも微細に捉えようというほどの神経質なほどのこだわりまでは感じられない。
特に顕著なのが、高音域に感じられる音の成分の違いで、ECMの場合は繊細な息づかいを感じさせる音だが、カムジャズの場合は、艶めかしく太い。
ヒンヤリとした涼やかさと、柔らかく空気を覆う暖かさが矛盾なく共存しているように感じる。
もちろん演奏者のタッチによって、音質は大きく異なるものだが、私が感じる両レーベルのピアノの音の差は上記のような感じだ。
カムジャズのピエラヌンツィのピアノの音を聴いていると、美しい音色はもちろん大切だけれども、それ以上に楽器が発する空気のうねりを殺さずに封じ込めようという意志が伝わってくる。
だから、カムジャズが発表しているピエラヌンツィのピアノのどれもが、エネルギッシュな躍動感に満ちているのかもしれない。
このように私が感じる音の触感を雄弁に物語っているのが『プレイズ・ドメニコ・スカルラッティ』。
はピエラヌンツィのソロ作品だ。
ピアノ1台だからこそ、より一層、脈打つピエラヌンツィのピアノの音色を自然な形でたっぷりと堪能できるのが嬉しい。
イタリアの作曲家、ドメニコ・スカルラッティのソナタを取り上げている作品だが、ここはさすがにジャズピアニストらしく、原曲のみならず、即興演奏も混入されている。
しかし、即興になった瞬間、ガラリと雰囲気が変わるということは皆無。原曲のムードを壊すことなく自然な形で即興へと演奏が移行しているのは、作曲者に対する敬意と曲への深い愛情と理解の賜物だろう。
もちろん、スカルラッティの曲を知らなくとも十分に楽しめる内容だし、なによりカムジャズならではの「太くて深くて艶めかしい」ピアノの音と、“疾走しているのに安定している”ピエラヌンツィのピアノの両方を心地よく味わえるので、ジャンルにこだわらない「いい音大好き派」な人にとっては、かなりおいしいCDだといえる。
記:2010/01/30
album data
PLAYS DOMENICO SCALRATTI (Cam Jazz)
- Enrico Pieranunzi
1.Sonata K.531/Improvisation on Sonata K.531
2.Sonata K.159/Improvisation on Sonata K.159
3.Sonata K.18
4.Improvisation on Sonata K. 208/Sonata K.208
5.Sonata K.377/Improvisation on Sonata K.377
6.Sonata K.492/Improvisation on Sonata K.492
7.Sonata K.9/Improvisation on Sonata K.9
8.Sonata K.51
9.Sonata K.260
10.Improvisation on Sonata K.545/Sonata K.545
11.Improvisation on Sonata K.3
12.Sonata K.3
13.Sonata K.239
14.Sonata K.69/Improvisation on Sonata K.69
Enrico Pieranunzi (p)
2007/12/08 & 09