センチメンタル/山下洋輔

   

薄ボンヤリで曖昧な世界

最近、私の周りで(といっても「音聴き会3バカトリオ」の間でだけだけど)、山下洋輔の『センチメンタル』がちょっとした話題に登ったりするけど、どうも私、このアルバム好きではない。

3バカトリオの1人の息子さん(ピアノ弾き)は、このアルバムは「ダメだぁ~」と投げ出してしまったようだ。

山下洋輔は、このアルバムではオスカー・ピーターソン御用達のスタインウェイを弾いているそうだが(くわえて、鍵盤を割ってしまい、スタジオにあったオニギリのご飯で割れた鍵盤を接着したそうだ)、どうも全盛期の頃の山下のピアノの迫力と比較すると、音像の輪郭がいまひとつクッキリ、ポッキリしておらず、遠く霧の向こうで鳴っているピアノの音を捉えた感じ。

焦点が定まらず、薄いベールに包まれたような、曖昧な世界が続く。

迎えることのないカタルシス

もっとも、この薄ぼんやりさも、冒頭の《オーバー・ザ・レインボウ》では、ある程度プラスに発揮されているようにも感じがし、それこそがこのアルバムの魅力なのかもしれぬが、さすがに何曲も続くと、さすがにツライ。

ライブではあんなに迫力のある《ボレロ》も、いまひとつ斬れ味悪く、カタルシスを迎えないままに終わるのが残念。

全編通して終始穏やかで、格調高げな(?)演奏にも聴こえるが、その格調高さと山下洋輔特有の攻撃性の狭間を瞬時に行き来するわけでもなく、むしろ、ゆらゆらとその中間を彷徨っているような印象が強い。

通過点の1枚

先ほど「全盛期」と書いたが、私が全盛期だと感じるアルバムは、『クレイ』と『キアズマ』この2枚の緊迫した演奏には身震いする。

この殺気と破壊力にノックダウンされてしまうと、『センチメンタル』の山下は物足りなく感じてしまう。

人生経験を積み重ね、円熟の境地に差しかかろうという1人のアーティストの成長として心温かく受け入れるべきなんだろうけれども、昔はブイブイ言わせていた暴力団のオジサンが、妙に物分かりが良くなり、急に文学や芸術に目覚め、ゆるいアカデミックさが加わったピアノソロアルバムのようにしか聞こえない。言い方悪いかもしれないけれど。

発売時はなにかと騒がれ、かつ評価も高かった。

しかし、山下洋輔というピアニストのキャリア全体から俯瞰すると、今となっては、通過地点に産み落とされた1枚という印象しかない。

記:2009/03/14

album data

SENTIMENTAL (Universal)
‐ 山下洋輔

1. 虹の彼方へ
2. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ
3. ユーモレスク
4. 枯葉
5. トロイメライ
6. スターダスト
7. サマータイム
8. 二人でお茶を
9. ボレロ
10. シークレット・ラブ
11. ピアノ協奏曲第二番第三楽章
12. P.S.アイ・ラヴ・ユー
13. グッド・バイ

山下洋輔 (p)

1985/08/28

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