スモールズ・パラダイスのジミー・スミス Vol.2/ジミー・スミス
黒人高級クラブでのライヴ
ブルーノートの親分、アルフレッド・ライオンは本当にジミー・スミスが大好きだったようだ。
これは1500番台に吹き込まれた彼のリーダー作の枚数を数えてみれば分かる。
じつに13枚!
すごい奴を見つけた!
できるだけ記録をたくさん残したい。
奴のすごさをたくさん世に広めたい!
というよりも、まずは、彼が演奏しまくる姿をできるだけたくさんこの目で見てみたい。
それも、出来ることなら色々なカタチで。
だから、いろいろな曲を演奏させた。
管楽器を参加させたり、デュオにしてみたり、ソロで演奏させたりと、出来るだけいろいろな編成でやらせてみた。
レギュラーのトリオの演奏でも、曲によっては楽器奏者を変えてみたりということもしているし、短期間の間にアルバム5枚ぶんもの録音をするという、マラソン、いや、荒業すらやってのけている。
もう、この入れ込みようは「ジミー・スミスをいじくり倒している」と表現しても過言でない。
しかし、ライオンがいじくり倒してくれたからこそ、ジミー・スミスはオルガン奏者としての名声を徐々に高め、後に大手レーベルに移籍をしヒットを飛ばし、ジャズのオルガンといえば、まずはこの人と言われるほどのオルガンマスターとして君臨できたのだ。
ブルーノート1500番台の12枚目と13枚目は、今度は大規模なホールでのライブ演奏を収録したものを2枚に編集され、収録されている。
収録されたライブハウスの名は「スモールズ・パラダイス」。
名前からは小さな会場という印象を受けるが、じつは「スモール=小さい」ではなく、この「スモールズ」は、オーナーのエド・スモールズの名前を冠したもの。
ハーレムにある唯一の黒人経営の高級クラブで、同じくハーレムにある白人客しか入れない「コットン・クラブ」とは違い、この店は人種に関係なく入店出来たそうだ。
テナーサックス奏者で、ブルーノートの運転手や有能なジャズマンの紹介も買って出ていたアイク・ケベックが、アルフレッド・ライオンをこの店に連れてゆき、熱演を繰り広げるジミー・スミスと初めて出会ったのもこの店だという。
以前は「クラブ・ベイビー・グラウンド」でのライブも収録したブルーノートゆえ、オルガン入りのライブの録音はお手の物かと思いきや、じつはそうでもなかったらしい。
つまり、会場が広すぎ、レコーディング・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーは、録音のポイントを探るのに苦労をしたようだ。
編成がトリオということもあり、なんとかブルーノートらしく中央に音が凝縮された密度の高い音が録音されたが、半年後に同じく「スモールズ・パラダイス」で、今度は管楽器奏者が参加したライブに関しては、録音されたナンバーの半分が廃棄されている。
やはり、ブルーノートサウンドの大きな売りの一つの力強さは、中域に音が凝縮した密集感であり、それが損なわれてしまいがちな広い会場での録音はブルーノート向きのサウンドはなかなか得られないのだということが、この一件からも分かる。
さて、肝心な演奏内容だが、vol.1、vol.2ともに、エキサイティングな勢いは保ちつつも、1年以前に演奏、録音された『クラブ・ベイビー・グラウンド』の熱さとは違うリラックスした寛ぎ感が感じられる。
ギタリストがソーネル・シュワルツからエディ・マクファーデンにメンバーチェンジしたことがもたらすサウンドの変化かもしれないし、同じようなテイストのライブ盤を作っても仕方がない、もう少し違う雰囲気の演奏が欲しいと、ライオンがスミスにディレクションしたからなのかもしれない。
いずれにせよ、この時期になってくると、ジミー・スミスは単に勢いとバイタリティだけで押せ押せの演奏をするオルガニストとしてではなく、引きの美学もわきまえた「聴かせるオルガニスト」に変化してきていることがよく分かる。
事実、これ以降のブルーノートのレコーディングは4000番台になるが、彼の知名度と人気が実質的に上がってきたのは、4000番台になってからのことだからだ。
個人的には、デビューしたての頃のジミー・スミスの荒々しい演奏が大好きなのだが、世間的には、もう少し荒々しさの抑えられた聴きやすい演奏が受け入れられたのだろう。
スタイルは変わらないが、語り口がじわじわと変化しつつある時期のジミー・スミスをとらえたライブアルバムが、『スモールズ・パラダイス』の2枚なのだ。
記:2012/02/20
album data
GROOVIN AT SMALLS' PARADISE VOL.2 (Blue Note)
- Jimmy Smith
1.Imagination
2.Just Friends
3.Lover Man
4.Body And Soul
5.Indiana
Jimmy Smith (org)
Eddie McFadden (g)
Donald Bailey (ds)
1957/11/15