ソニー・クラークとその情緒

   

text:高良俊礼(Sounds Pal)

「暗い」は「情緒」

ジャズ好き同士の会話の中で「いやぁ~、ジャズなんて聴くやつぁ暗い人間なんだよね~」と、和気藹々盛り上がることが多々ある。

ジャズが「暗い」と言われる理由は、私や愛好家の性質が暗いのか、ジャズという音楽が本質的に”陰”の音楽なのか、多分その両方だと思うのだが、とにかくジャズファンは暗い。

或いは「暗い」と一方的に思われていたりする。

「暗い」と言うとどうしても陰湿とかそういうネガティブなイメージがつきまとうのだが、ジャズの「暗さ」は繊細で奥ゆかしい情緒であり、ジャズファンはそういった繊細な情緒をついばんで、心の隙間を埋めているか弱い人達なのだ。

やるせないブルーな雰囲気

そんなジャズファンの暗さを体現しているかのような、ジャズファンの「心の故郷アーティスト筆頭」、ソニー・クラークを聴こう。

特に彼のラスト・リーダー作『リーピン・アンド・ローピン』には特別な「憂い」がある。

ジャズに馴染みがない人でも、ジャズの繊細な情緒が一発でピンときてしまうこのアルバム。

若くして夭折したクラークのリーダー作は数える程しかなく、そのどれもが独特の憂いを散りばめた儚さがそこはかとなく漂ってはいるが、こと「やるせないブルーな雰囲気」という部分に関しては、この盤の右に出るものはない。

チャーリー・ラウズ、アイク・ケベック、トミー・タレンタインなど、参加メンバーはいずれも渋い。

派手に個性を振りまくようなスターこそいないが、だからこそクラークとメンバーそれぞれの穏やかな持ち味が、ぶつかり合うことなくスムースに溶け合い、どんなにスイングしてもどこかに何かが引っかかってるような、哀しく儚い空気が終始漂っている。

その中で伸び伸びと、思う存分鍵盤に哀愁を叩き付けるクラーク、太く暖かいトーンで奔放にブロウするラウズにケベック(彼参加の2曲目は、涙ナシでは聴けません)。

細やかに唄い、”泣き”のフレーズを連発するタレンタイン、元々粘り気の多い音を、さらにベタベタに粘らせるウォーレン、とことん繊細な情感溢れるリズムを刻むヒギンスと、参加者全員が「何か」に突き動かされるように、個性を全開に発揮しながらいつも以上に情の入ったプレイを繰り広げるといったように、メンバーの持つ音色がアルバムの「空気」を作っている。

その空気の中でメンバーの持ち味がさらに活かされるというポジティヴな循環が、このセッションの中で生まれているのだ。

とことん哀しく、しかしとことん美しい情感に満ちた音世界。

ジャズが持つ「哀愁」の不思議な魅力に興味のある方には、まずはさておき聴いていただきたいこのアルバム。

「暗い」の一言では片付けられない奥深さを、ぜひともジャズファン以外の方に感じていただきたいものです。

記:2015/04/11

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●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

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