ソニーズ・ドリーム/ソニー・クリス
新しいクールの誕生?
ソニー・クリスにしては珍しい(?)大人数編成のアルバムだ。
サブタイトルに「ニュー・バース・オブ・ザ・クール」とあるので、マイルスのノネット(九重奏団)を意識していることは明白だ。
もっとも、『ソニーズ・ドリーム』は10人編成(テンテット)。
ソニー・クリスのアルトサックスに加え、トランペット、テナーサックス、トロンボーン、バリトンサックス、チューバなど、ジャズにおいてはおなじみの管楽器がアンサンブルを彩っている。
『クールの誕生』のアレンジャーはギル・エヴァンス。
フレンチホルンなどジャズではあまり用いられない楽器を起用し、凝ったアレンジゆえ、管楽器のハーモニーや重ねられた音の色彩感覚には独特なものがあった。
しかし、このアルバムで編曲を手がけているホレス・タプスコットのアレンジは良い意味で凡庸かつオードソックス。
ゆえに人数が増えても、音の肌触りは、クインテットやセクステットなどのオーソドックスな4ビートジャズの延長線として聴くことができる。
個人的には、『クールの誕生』よりも、ケニー・ドーハムの『アフロ・キューバン』に近い肌触りを感じた。
アンサンブルそのものは重厚だ。
しかし、クリスの軽やかなアルトのプレイは変わることはない。
ドーハムとクリス
重厚なアンサンブルを際立たせるるためか、ミドルテンポかつマイナー調のナンバーが多い。
一曲目の《ソニーズ・ドリーム》がその最たるもので、このアルバムの雰囲気を決定づけていると言っても良いだろう。
ブリッ!としたバリトンサックスの音色と、ガバッ!とハーモニーを奏でる管楽器群、その重さの中を軽やかに行き来するクリスのあるとを聞くと、先述したケニー・ドーハムの『アフロ・キューバン』を思い出してしまう。
このアルバムも、ペッパーアダムスのバリトンを始め、重厚かつブリッ!としたアンサンブルの中、ドーハムの軽やかなトランペットが自在に蛇行を繰り返していた。
重過ぎず、飄々としたところもあるケニーのトランペットならではこその味わいだった。
それと同様に、クリスのアルトも淀みなくクリアな音色ゆで、明朗闊達さが特徴のプレイゆえ、重たいアンサンブルの中、あたかもビルが林立する都市の裏通りを軽快に疾走する軽自動車のごとく、快適にアンサンブルの中を駆け抜けている。
ワンホーンカルテットであろうと、オクテットのような大人数編成であろうと、クリスはクリス。
どのような編成やアレンジであろうとも、彼の一吹きさえあれば、クリス・テイストの色彩になってしまうところが面白い。
パーカー派という不幸
クリスは、たしかにパーカー派のアルティストの中では軽く見られがちな存在ではあるけれども(それが彼の不幸だと思う)、彼には彼独自のヴォイスとテイストがある。
特にフレージングにおいてはチャーリー・パーカーを彷彿させる要素が多く、パーカー的な演奏を期待するあまり、我々はクリスに過大な期待をしてしまいがちなところがあるかもしれない。
しかし、両者を車に例えれば、走り方は似ていても、搭載しているエンジンの馬力が全く違う。クリスはあくまでコスパがめちゃくちゃ高い軽自動車であって、軽自動車ならではの軽やかかつ加速の良い走りっぷりを我々は楽しむべきだろう。
そして、大人数編成のこのアルバムの演奏を聴くことで、かえってクリスの加速の良さやコーナリングの小気味良さを実感することができるのだ。
ソニー・クリス、最初の1枚に挙げるには難があるが、それでもクリス好きなら4〜5枚目に差し掛かった際は、ぜひ聴いて欲しいアルバムだ。
記:2016/11/10
album data
SONNY'S DREAM (Prestige)
- Sonny Criss
1. Sonny's Dream
2. Ballad For Samuel
3. The Black Apostles
4. The Golden Pearl
5. Daughter Of Cochise
6. Sandy And Niles
7. The Golden Pearl (Previously Unissued Alternate)
8. Sonny's Dream (Previously Unissued Alternate)
Sonny Criss (as,ss)
Conte Candoli (tp)
Dick Nash (tb)
Ray Draper (tuba)
David Sherr (as)
Teddy Edwards (ts)
Pete Christlieb (bs)
Tommy Flanagan (p)
Al McKibbon (b)
Everett Brown Jr. (ds)
Horace Tapscott (arr)
1968/05/08