ソウル・タイム/ボビー・ティモンズ
アイル・クローズ・マイ・アイズ
ブルー・ミッチェルの『ブルーズ・ムーズ』が好きなジャズファンって多いと思う。
1曲目の《アイル・クローズ・マイ・アイズ》は、魅惑的なテーマの旋律もさることながら、のびのびと吹かれるメロディアスなミッチェルのトランペットを存分に楽しめるナンバーだ。
私の場合は、この《アイル・クローズ・マイ・アイズ》のトランペットのアドリブラインはソラで歌えてしまうほど聴き込んだし、ソラで歌えるということは、それだけメロディアスであることの証でもある。
火の出るような凄いソロといった類のアドリブではないが、じんわりと染みてくる、「明るいけれどもブルーな感じ」がたまらない名演奏だ。
もし、このブルー・ミッチェルの《アイル・クローズ・マイアイズ》のトランペットソロが好きな人は、ぜひボビー・ティモンズがリーダーの『ソウル・タイム』の《スポージン》にも耳を通していただきたいと思う。
ミッチェル節
《スポージン》のブルー・ミッチェルのアドリブを聴くと、「あ、ここにも! おっ、こんなところにも!」と、《アイル・クローズ・マイアイズ》の面影が出てくるのだ。
面影というよりは、はっきり言って同じフレーズですね。
そう、《アイル・クローズ・マイアイズ》で吹かれたフレーズと同じフレーズがいたるところに出てくるのだ。
悪く解釈すれば、手癖に頼ったアドリブで、ブルー・ミッチェルという人は引き出しの少ないトランペッターであるという見方も出来るかもしれないが、たとえ手癖であっても魅惑的なフレーズであれば、大歓迎。
むしろ曲の要所に出してくれるほうがファンとしては嬉しいものだ。
強力なリズムセクション
『ソウル・タイム』は、ピアニストのボビー・ティモンズがリーダーのアルバムだが、編成は、トランペットのワンホーン・カルテットだ。
したがって、フロントを彩るブルー・ミッチェルがリーダーのアルバムでもいいんじゃない?と、編成だけを見ると思えてしまうのだが、しかし、実際の音を聴いてみると、さにあらず。
やはり、これはボビー・ティモンズのアルバムなのだ。
ブルー・ミッチェルがリーダーの『ブルーズ・ムーズ』でのピアノはウイントン・ケリーだった。
彼は生来のリズム感のセンスと、立ち居地をわきまえた的確なバッキングで、主役のミッチェルのトランペットを素晴らしいバランス感覚でサポートしていた。
だからこそ、流麗でありながらも、ちょっと線の細い感じもするミッチェルのトランペットが映えていたのだ。
ところが、ティモンズがリーダーの『ソウル・タイム』となると、とにかくリズム陣が強烈。
よって、フロントのミッチェルが霞んでしまう瞬間すらあるほどなのだ。
ティモンズの独特な粘りのあるピアノもさることながら、アート・ブレイキーのドラムがやはりプッシュ力が強力だ。
冒頭のタイトル曲は3拍子だが、この2拍目と3拍目を「ッチャッチャッ!」と執拗かつ強力に踏まれるハイハットの空間支配力といったら。
また、これも是非注目して欲しいのだが、ベースのサム・ジョーンズの職人技も見逃せないのだ。
派手なプレイは一切せず、決して揺らぐことのない強靭なビートを提供しているのは、いうまでも無くサム・ジョーンズの低音だ。
コクのあるオイシイ低音で、演奏の根底をどっしりと支え、牽引していくサム・ジョーンズのベースワークもこのアルバムの聴き所のひとつとなっている。
ティモンズ、ブレイキー、サム・ジョーンズ……。
彼らが繰り出す三位一体の強力なリズムセクションが背後にいれば、ブルー・ミッチェルならずとも、どんなトランペッターでも、そうとうな着合いを入れて演奏に臨まなければ、たちまち「喰われて」しまうだろうし、やはり、ブレイキーのドラムは、ワンホーンのバックではなく、ジャズ・メッセンジャーズのように、サックスやトロンボーンなどが加わった2管、あるいは3管編成が相応しいのかな?と思わせてしまうのだ。『ソウル・タイム』の演奏を聴いていると。
もちろん、ブレイキーのメッセンジャーズの演奏に耳が慣れてしまっていることもあるかもしれない。
さらに、ブレイキー、ティモンズの組み合わせとくれば、無意識に『モーニン』や『チュニジアの夜』などのアルバムのサウンドが耳に蘇ってくることもあり、どうしても、リー・モーガンのような「強い」トランペッターと、テナーサックスの音色が被さった演奏を思い出し、無意識に比較をしてしまうと、「ちょっと線が細いかな?」と感じてしまうのもいたし方のないことかもしれない。
もちろん、ミッチェルも健闘はしているのだが、バックのリズムセクションが変わるだけで、こうもサウンドカラーが変わってくるのだということが手に取るように分かるアルバムだ。
ティモンズのピアノ
肝心のボビー・ティモンズのピアノだが、《モーニン》のピアノソロのような過剰なほどのコテコテピアノを期待すると、少し肩透かしを食らうかもしれない。
もちろん、だからといってアッサリとしているわけでもないが、過剰表現に陥ることなく、折り目正しくソウルフルなピアノを弾いている。
といよりも、むしろ、このアルバムのティモンズを聴けば、逆にジャズ・メッセンジャーズにおける《モーニン》のようなピアノは、意図的に派手さと黒っぽさをふりまいた演出の要素が大きかったのではないかという見方も出来るだろう。
ブルー・ミッチェルが抜けて、ピアノトリオで演奏される《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ》は、非常に実直な演奏で、派手さや奇を衒った要素はまったくない。
平凡なピアノトリオ演奏といってしまえばそれまでかもしれないが、こういう淡々とした平凡な演奏を最後まで聴かせてしまう力量は、ティモンズならではのものだ。
ブルー・ミッチェルのトランペットの味わい深いフレーズ、サム・ジョーンズの味わい深いベース、強力なブレイキーのドラム、比較的地味目なピアノのティモンズ。
しかし、この4人の音が合わさると、他では聴けない、このアルバムならではのサウンドテイストが生まれるので不思議だ。
ミッチェル抜けたピアノトリオ
とはいえ、ミッチェルの参加効果を書いておきつつ、ラストはミッチェル抜きのピアノトリオについても書いておかねばなるまい。
ラストナンバーの《ワン・モー》。
これ、ティモンズとサム・ジョーンズとブレイキーによるピアノトリオなのだが、これがなかなか良いのだ。
サム・ジョーンズのあの硬い音色にグッと抑え込むようなノリもゾクッとくるほどたまらないが、さらにアート・ブレイキーの執拗に2拍4拍を踏み続けるハイハットの力強さに職人魂を見る思いだ。
とにかく、堅実で力強い。
絶対に2拍4拍を崩さない。
意地でも崩さずに維持している頑なな姿勢は、ある意味感動的ですらある。
これら「リズム職人」が形作るリズムフィギュアの上で、奔放になりすぎず、グッと重心を抑えたピアノを奏でるティモンズのピアノにも男を見る思い。
地味ではあるが、ジャズ心を突きまくる渋いピアノトリオ演奏だと思う。
記:2016/06/05
album data
Soul Time (Riverside)
- Bobby Timons
1.Soul Time
2.So Tired
3.The Touch of Your Lips
4.S'posin
5.Stella B.
6.You Don't Know What Love Is
7.One Mo
Bobby Timmons (p)
Blue Mitchell (tp)
Sam Jones (b)
Art Blakey (ds)
1960/08/12&17
at Plaza Sound Studio in New York