スター・ブライト/ディジー・リース

   

アメリカ移住後のリーダー作

私がはじめてディジー・リースというトランペッターに注目したのは、デューク・ジョーダンの『フライト・トゥ・ジョーダン』(Blue Note)のプレイを聴いて。

溢れる歌心に加え、輪郭のしっかりとしたアドリヴ・フレーズ。

さらにその歌心に説得力を倍化させるがごとくの、腰の入った力強いトーンに魅せられた。

ディジー・リースは、ジャマイカのキングストン生まれ。

ロンドンに渡り、10年の間イギリスとフランスを股にかけて活動していた。

そのときに吹き込んだ作品で最初のリーダー作が『ブルース・イン・トリニティ』。

これもブルーノートから出ているアルバムだが、原盤をブルーノートが買い取って発売した作品なので、ブルーノート録音のものではない。

ヨーロッパでの活動の後、ブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオンの強い勧めでアメリカに移住したリース。

この『スター・ブライト』は、ブルーノートの2作目と同時に、リースの2枚目のリーダー作にもなる。

インパクトに溢れる赤いジャケット。このジャケットの醸しだす雰囲気からして濃厚なハードバップの香りが漂っている。

ウイントン・ケリーにポール・チェンバース。そしてアート・テイラーという贅沢なリズムセクション。
テナー・サックスはハンク・モブレイ。
生粋のハード・バッパー達による、極上の演奏が繰り広げられる。

このアルバムは、《アイル・クローズ・マイ・アイズ》が演奏されているということで、何かと話題になるアルバムでもある。

つまり、同じくトランペッター、ブルー・ミッチェルが『ブルーズ・ムーズ』というアルバムでワンホーンで同曲を吹いている上に、ピアノも両アルバムともウイントン・ケリーだという理由で、なにかと比較の俎上に乗りやすいのだろう。

もちろん、私はディジー・リースの《アイル・クローズ・マイ・アイズ》も良いと思うが、Fのキーで演奏されているブルー・ミッチェルのバージョンのほうが個人的には聴いていてしっくりとくる。

演奏の良し悪し以前に感じる、非常に生理的かつ個人的な感触なのだが、私は《アイル・クローズ・マイ・アイズ》という曲のメロディにピッタリなキーは「F」だと思っている。

それ以外のキーの演奏は、なんだか、身体が宙吊りになっているような妙な感覚に陥るのだ。

もっとも、私自身が時折セッションで演奏しているこの曲のキーが「F」だからということも大きな原因なのかもしれないが。

それよりも、私はむしろ一曲目の《ザ・レイク》のほうが好きだ。

スローテンポで、引きずるような重たさを感じる演奏。アーシーな香りがムンムンと漂ってきて良い。

低くグルーヴするノリと、意表を突いたメロディの展開がとてもワクワクする。

ディジー・リースは、このレコーディングがキッカケで初対面のハンク・モブレイと親友になったという逸話も興味深い。

二人ともメロディをとても大切にプレイするジャズマンだからだ。

派手さや絢爛さよりも、地味でも良いから、味わい深いメロディを作り上げようという心意気を持った二人。
彼らが意気投合したのにも頷ける。

記:2003/02/28

album data

STAR BRIGHT (Blue Note)
- Dizzy Reece

1.The Rake
2.I'll Close My Eyes
3.Groove's Ville
4.The Rebound
5.I Wished On The Moon
6.A Variation On Monk

Dizzy Reece (tp)
Hank Mobley (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)

1959/11/19

 - ジャズ