ストレート・トゥ・ザ・ハート/デヴィッド・サンボーン
ライヴ映像もカッコいい!
ボブ・ジェームスの《ゼブラ・マン》に参加しているデヴィッド・サンボーンのソプラノサックスを聴いていたら、むしょうにサンボーンが吹くアルトサックスを聴きたくなった。
大学のジャズ研時代のアルト吹きがサンボーンの大ファンだったということもあり、サンボーンのアルバムだったらたしか5~6枚はライブラリにあったはず。
何を聞こうかな?
うん、やっぱり『ストレート・トゥ・ザ・ハート』かな。
これの中身は、音源を聴く以前からずいぶんと「観て」いた。
渋谷のジャズ喫茶「スウィング」で、このアルバムのライブ映像がよくかかっていたからだ。
当時は、リクエストの多い人気映像だったのだ。
終始モノクロで展開されるスタイリッシュな映像の中には、若き日のマーカス・ミラーやハイラム・ブロックの勇姿もあり、これがまたカッコいいのですわ。
演奏姿もさることながら、彼らが繰り出す勢いのある音がサンボーンが吹くサックスのボルテージをさらにアップさせているかのようだった。
この映像のライブ音源と、スタジオで録音された演奏が収録されているのが『ストレート・トゥ・ザ・ハート』。
最初に衝撃を受けたサンボーンの音楽(映像)ということもあってか、個人的にはやっぱりこのアルバムががサンボーンのベストなんだよね。
いや、サンボーンのプレイのみならず、マーカスのベースの演奏もベストに入るのではないかと思うほどカッコいい。
特に《ハイダウェイ》と《ラン・フォー・カヴァー》のベースが良いね。
このアルバムをプロデューサーなだけのことはあって、ぬかりなく自分のベースをカッコ良く光らせるスペースをこしらえているところがニクい。
もちろん《ハイダウェイ》は、ベースのみならず、参加プレイヤーが一丸となって、どこかひとつの目標に向かって突進してゆくかのような一体感とスピード感がたまらない。
この高揚感は、ジャズやフュージョンを聴いているときに味わえる類のもとはちょっと違い、個人的には、高校生の頃に熱中していたメタリカやアンスラックス、アイアン・メイデンを聴いているときの高揚感に近いものがある。
拳を力強く握り締めて、「キタ~!」となる感覚といえば、分かる人にはわかることでしょう。
ハイライトはもちろんマーカスのベースソロのパート。
この曲はアルバム『ハイダウェイ』にも収録されているけれども、パワフルな勢いは、『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』のバージョンが数段勝っている。
これ1曲聴くためだけに、このアルバムを取り出すこともあるほどだ。
サンボーンのアルトは、クリアな音色に泣きがはいったようなちょっと独特なもので、その節回しも含めて、ほんの数音で彼のものだとわかってしまうほどの強烈な個性を有している。
障害を克服して獲得したオリジナリティ
聴くところによると、小児麻痺を治すために始めたアルトサックスで、いつのまにかこのようなスタイルが形成されてしまったようだ。
小児麻痺といえば、ピアニストのホレス・パーランを思い出す。
彼も、この病気のため、動かせる指には限りがあったが、だからこそ彼にしか出来ない独特な奏法とグルーヴを生み出した。
ジャンゴ・ラインハルトも同様で、火事でヤケドを負ったことが原因で、左手の薬指と小指が不自由になってしまい、くっついた残り少ない本数の指で彼にしか出来ない独特の奏法を生み出している。
ハンディを克服する意思のある者に独自の奏法が宿る音楽、それがジャズなのかもしれない。
もっとも、サンボーンは4ビートも演ってはいるものの、どちらかというとフュージョンやR&Bのホーン奏者というイメージのほうがしっくりくるが。
記:2018/09/17
album data
STRAIGHT TO THE HEART (Warner Bros.)
1.Hideaway
2.Straight to the Heart
3.Run for Cover
4.Smile
5.Lisa
6.Love & Happiness
7.Lotus Blossom
8.One Hundred Ways
David Sanborn (as,key)
Randy Brecker,Jon Faddis (tp)
Michael Brecker (ts)
Hiram Bullock (g)
Don Grolnick (key)
Marcus Miller (el-b,syn,vo)
Buddy Williams (ds)
Ralph MacDonald,Michael White (per)
Hamish Stuart,Lani Groves,Frank Floyd,Vivian Cherry (vo)