シュガー・プラム/ビル・エヴァンス
評価が低い『ビル・エヴァンス・アルバム』
『ビル・エヴァンス・アルバム』といえば、エヴァンスがエレピ(エレクトリック・ピアノ)を弾いているということで、有名なアルバムです。
と同時に、エレピを弾いているからという理由からか、なぜか評価が低いアルバムでもあるようです。
もしかして、ジャケットのエヴァンスの「ニヤリ顔」に引いてしまった聴かす嫌いさんもいたりして?
でもね、エレピを弾いている云々を差し引いても、エヴァンスのピアノは、なかなか良いのですよ。
聴きやすい。
いや、「聴きやすい」と書いてしまうと、真面目なジャズファンや、ジャズにシリアスな要素だったり、高貴な精神性のようなものを求める人は、顔をしかめてしまうかもしれませんが、聴きやすさの中にも、きちんとエヴァンス独自の美学が流れていることも主張しておきたいですね。
「緩い」ところが魅力
この聴きやすさの理由のもう一つの理由に、適度に「緩い」ということも挙げておきましょう。
もちろん、悪い意味での「緩い」じゃないですよ。
良い意味で「緩い」。
だから、深夜に一人、酒を飲みながら聴けば、柔らかく心をマッサージしてくれるでしょうし、大好きな人とバーなどのムードのある場所で小声で会話をしながら楽しいひと時を過ごしていても、決して会話の邪魔をするような張り詰めた緊張感を提供する類の音ではないということです。
適度に力が抜けている。
聴きやすく、優しい語り口でありながらも、心の奥にすっとしみ込んでくる一流の表現者だけが持つ「芯」のようなものがキチンとあるのです。
その代表例が、《シュガー・プラム》という曲かもしれません。
けっこう、いい加減というか、面白いんですよ。
ピアノを弾いたり、エレピを弾いたりとエヴァンス大忙しなんですが、べつにピアノとエレピを弾きわける必要ないんじゃない?と思うほど、ピアノだけでも十分聴かせることが出来る良い曲、良い演奏なんですね。
最初は、ピアノのソロから始まるのね。
いいムードです。
やがてベース、ドラムが付き従ってくる。
うーん、いつものエヴァンス・トリオじゃないですか。
いい感じ。
ところが、ベースソロになると、いきなり、アコースティックピアノが、エレクトリック・ピアノになっちゃうのね(笑)。
「このアルバムはエレピを弾くアルバムだから、エレピを弾かなあかん!」というような取ってつけたような無理矢理感も感じられるんですが、まあ、エレピがベースソロを彩っても、そんなに悪くはない。
ピアノのままでもイイじゃん、とは思いますけど(笑)。
で、そのままベースソロが終わると、エレピのままアドリブに戻っていく。
そして、最後は、これまたとってつけたようにアコースティックピアノでエンディング(笑)。
ピアノで始めたから、ピアノで終わらないと、なんだか収まりが悪そうだからピアノにしてみました、みたいな感じなのね。
そこが可愛らしいというか、微笑ましいというか。
アコースティックピアノのままでも、十分素晴らしい演奏なのに、なんで無理矢理エレピ?という突っ込みは抜きにして、でも、そういうところも含めて楽しめる演奏なことはたしか。
なかなか良い曲、良いピアノなんですよ。
可愛らしい曲なんですが、そこはさすがエヴァンス。
彼独特のハーモニーとタイミングで、リスナーの心に柔らかく迫ってくるのです。
記:2016/03/21