おいおい、それはないだろう……、と泣きそうになるビリーの《サニー・サイド》
2017/08/04
ビリー・ホリデイの歌う《サニー・サイド・オブ・ストリート》は、正直、サニーとは言い切れない深い蔭が落とされている。
彼女は作為的とはほど遠い、天然の感覚でメロディを崩して歌うことが多いが、それはまさにビリー流としか言いようの無いほどの節まわし。
この《サニー・サイド・オブ・ストリート》もそうだ。
原曲のメロディはまったくと言っていいほど出てこない。
その代わり、さすがに歌詞の意味は深いレベルで理解していると思われ、メロディが刷新されたぶん、歌詞は非常に聞き取りやすく、こちらにも自然と歌の意味が言葉とメロディが融和した何の違和感も感じない状態で、胸の奥に吸い込まれてくる。
ここが、不世出の歌手ビリー・ホリデイたる所以なのだろうが、とくに、この曲のキモとなる箇所のひとつ、
♪Life can be so sweet
のところ。
この歌詞を、あの節で、あの声で、ああいうニュアンスで、サラりと通り過ぎるように歌われると、なんというか、泣けてくるんだよな。
なぜだかよく分からないけど、「おいおい、それはないだろう」と、ホロリとわけもなく悲しくなる。
デッカ時代のビリーでは、《ベイビー、アイ・ドント・クライ・オーヴァー・ユー》と共に《サニー・サイド》は、好きな歌のひとつ。
代表曲とされる《奇妙な果実》もそうだが、デッカ時代のビリーは、あふれんばかりの激情を、強い意志で抑制させて歌うことが多い。
だから、一聴、淡々と歌っているように感じられる声の中にはさまざまなニュアンスを感じ取ることが出来るのだ。
これぞまさにテクニックを超えた表現力。
記:2012/05/17