ガボール・ザボの《イエスタデイ》

   

text:高良俊礼(Sounds Pal)

ガボール・ザボ

ジャズの世界に「個性的」と呼ばれるミュージシャンはたくさんいるが、その中でもハッキリと「人と違う」「他の誰とも似ていない」という意味において、ガボール・ザボは群を抜いている。

ホンモノのサイケ

生まれは東欧のハンガリー、母国の社会不安から逃げるようにアメリカに移住してジャズ・ギタリストを志し、バークリー音楽院に入学するが、卒業後は単純な4ビートは一切やらず、ビートルズやバカラックなど、ロック/ポップス系の楽曲を多くカヴァーし、また、自作のオリジナル曲も、ロックやインド音楽などに強く影響を受けた、一言でいえば「サイケ」なものばかり。

確かにザボが活躍した1960年代後半は、アメリカ西海岸発祥のサイケデリック/ヒッピー文化である「フラワー・ムーヴメント」が世界中を席巻していて、ジャズの世界にも「サイケっぽいアレンジ」「サイケなレコードジャケット」などでちょこちょこその影響を受けているであろうものはある。

多くのジャズ・ミュージシャンにとっては恐らくサイケだのフラワー・ムーヴメントだのは、「何だかよくわかんねぇけど、流行ってるんだろ?」ぐらいのものだったろうことは、それら「何となくそれっぽい作品」を聴くと一目瞭然であるが、ザボだけは違った。

アンプに繋げたアコースティック・ギターから、独特のタイミングで放たれる無国籍なフレーズや、そのフレーズにまとわるエコー、トーンホールがハウリングして発生するフィードバック音、それらからは「俺はこれでいくんだ!サイケだ、ドリーミーなサウンドだ!」という、凄まじい気合いと底なしの「本気」が伺える。

インパルスのザボ

最初に知ったのは、私がジャズを聴き始めの頃。

後期コルトレーンに衝撃を受けたことがきっかけで、Impulse!のアルバムをレーベル買いしていた時「ガボール・ザボ」というヘンな名前と、アコースティック・ギターという、モダン・ジャズではまず使わない楽器を弾いているという「変なモノ聴きたさ」の気持ちで、ザボのImpulse!盤を何枚かまとめて買った。

サウンドは想像していたより遥かにサイケで、どのアルバムからもプンプンとラジカルなモンド臭がして、しかもそれが全然嫌味っぽくもあざとくもなく、すこぶる真剣で誠実な演奏に聴こえたから、私は一瞬でザボが大好きになった。

特にザボのビートルズやバカラック・ナンバー、原曲のポップさが少しも壊されることなく、ユルめのアシッドなテイストをまぶされて極上のインスト音楽に仕上がった珠玉の名曲達の、他では味わえない魅力的なアレンジには、抗しがたい魅力がある。

ザボの《イエスタデイ》

『ジプシー'66』には、冒頭にビートルズの《イエスタデイ》のカヴァーが収録されている。

2分30秒の短い演奏で、あの美しい原曲のメロディーを、渡辺貞夫のフルートが、実にシンプルに吹いているが、この演奏の中でフルートに寄り添いながらオブリガードで「ウラ」を取っているザボのギターがとにかく凄いのだ。

余計な装飾や手数など加えずに、ひたすらハモるメロディを、アクセントの「ずらし」だけでピタッ、ピタッと主旋律にはめ込んでゆく。

先ほどから私はザボの芸風をサイケだとかモンドだとかアシッドだとか言って、それは確かにどのアルバムを聴いてもザボのワン・アンド・オンリーの個性として妖しい光を放っているのではあるが、何というか彼は「美しいものを美しいまま表現する」ということを本来とても大事にする人で、その音楽や表現に対する真摯な姿勢を《イエスタデイ》でひしひしと感じて、ザボがますます好きになった。

「ジャズ・ギタリストで好きな人を3人挙げなさい」といわれたら、私はザボを挙げるだろうな~。

オーソドックスなスタイルではないけど、だからこそ余計に「気になる何か」「一度ハマッたらやめられない何か」をタップリ持っている素敵な個性なのだ。

記:2016/10/10

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

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