孤独の影/ジャパン
2021/02/10
《スウィング》の変態ベース
アルバムとしてのトータルな完成度という側面から言えば、圧倒的にこの一枚後に発表されたラストアルバム『錻力の太鼓』のほうが上だ。
しかし、ひとたびミック・カーンの天然変態ベースの気持ちよさに頬を緩ませたい御仁は、こちらの《スイング》を聴くべきだろう。
この一曲をもってして、「俺様はパンク・俺様はシド・ヴィシャスだぜ!」なベーシストに「なんじゃこりゃぁ!」と叫ばせ、このベース滅茶苦茶気になる→こんなベース弾きたい→ジャパンを聴こう→パンクどころじゃないぜ、ってことで、パンク信者から一夜でニューウェーヴ信奉者に「改宗」した人間もいるくらいなのだから(実話)。
唯一無二の個性
坂本龍一との共作もあるし、アンニュイな歌唱が相変わらずたまらんデヴィッド・シルヴィアンのヴォーカルも、もちろん最高。
ちなみに、坂本龍一は、本アルバムの《テイキング・アイランズ・イン・アフリカ》に参加している。一瞬『B-2 unit』の《E-3A》かと思っちゃったよ。
シルヴィアンの弟、スティーヴ・ジャンセンのドラムも、この時期のジャパンにはなくてはならないものになっている。
アクセントの位置を微妙にズラすんだけど、このハズしの心地よさが最高なのだ。
そして、ジャンセンのドラムに、あたかも大木の枝に巻きつく大蛇のように絡まってゆくミック・カーンの太くてにゅいーんとした、何にも考えていないようで、実はピッタリと曲にマッチし過ぎるぐらいにマッチしているベース。
もうなにも言うことないぐらい、最高のサウンド、というより唯一無二の個性だ。
これだけ、アクの強い個性が際立った人たちの「音」がひとつの音楽として奇跡的に溶け込んでいるのだから、ジャパンっていうバンドは、繰り返すようだけど、本当に唯一無二のアンサンブル力を有していたバンドで、ビジュアル面においては彼らの影響を受けているバンドは多いにもかかわらず、アンサンブル面においては、彼らの影響を受けた演奏をしているバンドが現れていいないのは当然といえば当然なのかもしれない。
『錻力の太鼓』の凝縮された高密度でストイックなサウンドとは逆を行く、外へ外へと拡散してゆくサウンド。
『孤独な影(ジェンントルマン・テイク・ポラロイズ)』は、気軽に、構えずに、日常的に楽しめるジャパンのアルバムの最右翼かもしれない。
個人的には、《マイ・ニュー・キャリア》がフェイヴァリット。
これ、朝から聴くと、なんだかものすごくアンニュイな気分になってしまうのだけれども、この曇り空の中に差し込む陽光を感じさせるアンニュイさは、この曲ならではのワン・アンド・オンリーなものだ。