トゥ・ヒア・イズ・トゥ・シー/エリック・クロス
盲目の凄腕プレイヤー
大きめなサングラスに精悍な面構え。
で、なんとはなしに『マトリクス』時代のキアヌ・リーヴスを彷彿とさせるところあたりが、テテ・モントリューを連想してしまうが、両者の共通しているところは盲目であること。
テテは盲目のピアニスト、そしてエリック・クロスは盲目のサックス奏者。
そして、両者ともに「耳が良い」。
それにプラスして、表現のスタイルは異なるが、二人とも「前へ、前へ」と積極的に乗り出してゆくバイタリティがある。
もちろん、単に耳のよさのみならず、その感覚を具現化させるための肉体的トレーニングも必要なことは言うまでもないが、エリック・クロスが具現化したい音は、確固としたものとして彼の頭の中にあり、それを表出できるだけの腕を早期の段階で身につけていたのだろう。だからこそ、彼のデビューは早く、1965年、既に16歳のときには初リーダー作を吹き込んでいる。
『イントロデューシング』というアルバムだが、素晴らしい音楽性とともに、他では聴けないユニークなフレージングが印象に残っているジャズファンも少なくないのでは?
強力なリズムセクション
それから数年後、若干20歳の時に吹き込んだ『トゥ・ヒア・イズ・トゥ・シー』では、テクニックといいセンスといい、さらに磨きのかかったシャープなサックスを披露する。
しかも、バックのリズムセクションが凄い。
翌年の1970年に、マイルス・デイヴィスがワイト島ロック・フェスティヴァルに出演した際に起用したリズムセクション、すなわち、チック・コリア、デイヴ・ホランド、ジャック・ディジョネットが、エリック・クロスのワンホーンを盛り立てている。
強力なリズムセクションでありながらも、エリック・クロスは圧されることなく、時にはアルト、時にはテナーで自在に音を紡ぎ出している。
ジャック・ディジョネットのドラミングが、少し奥に引っ込んでしまっているミックスのバランスが少々残念だが、そのぶん、チックのエレピが際立ち肉体的な興奮もさることながら、脳内の興奮を誘発する。
チックは曲によってアコースティックピアノとエレクトリックピアノを弾きわけているが、だんぜんエレクトリックピアノのほうが良い。
マイルス・デイヴィスのライヴ盤『ブラック・ビューティ』の冒頭で奏でていた、罅割れた邪悪な音色がここでも健在だ。
エッジの尖った当時のチックならではのエレピの音色で、けっこう細やかなバッキングを施しており、それを追いかけるだけでも興味深い。
そして、音数多く存在感のある音色ながらも、クロスのサックスを邪魔することなく、むしろクロスのプレイヤー心に火を点けているかのようにすら感じる。
ダークな陰りとストレートなスピード感が一体化した充実の1枚だ。
記:2019/08/03
album data
TO HEAR IS TO SEE (Prestige)
- Eric Kloss
1.To Hear Is To See
2.Kingdom Within
3.Stone Groove
4.Children Of The Morning
5.Cynara
Eric Kloss(alto saxophone,tenor saxophone)
Chick Corea(piano, electric piano)
Dave Holland(bass)
Jack DeJohnette(drums)
1969/07/22
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