トランス・ブルー/日野皓正
スティングと共演したときの凄いカークランド
スティングの《ブリング・オン・ザ・ナイト》を聴いてしまうと、ピアニスト、ケニー・カークランド観がかなり変わると思う。
Bring on the Night (Sound & Vision)
ウィントンやブランフォード・マルサリス兄弟のサイドマンとして手堅いピアノを弾いているだけの存在かと思いきや、じつは、ロックフィールドのほうで、こんなにもノリノリでゴキゲンなピアノを弾く人だったとは!と、その昔、《ブリング・オン・ザ・ナイト》を聴いたジャズファンは誰しもが思ったはず。
リーダー作は出しているものの(1枚のみだが)、まだまだカークランドは、持てる潜在能力の半分も発揮しないまま、夭折してしまった。
ヒノテルアルバムに参加していたカークランド
幅広い音楽性と卓越したテクニックを有しながらも、結局、サイドマンとしてピアノの椅子に座ることのほうが多かったカークランドは、リーダーの音楽性や要求に合わせ、おそらくはどれもが水準以上の演奏をしたに違いない。
しかし、それだけを聴いてカークランドは手堅いピアニストだったな~と思うのは、ちょっと勿体無い。
というより、カークランドの早すぎる死が本当にモッタイナイ(享年43歳)。
生前はもっとたくさんのレコーディングに参加していて欲しかったと思うのはファンの勝手な要望なんだろうけれど、そんなわけで、そういえば、こんなところにも参加してました、な1枚にヒノテルの『トランス・ブルー』がある。
バラード集
トランペットとコルネットの両刀使いである日野は、このアルバムにおいては、コルネットに徹し、代表作《アローン、アローン、アローン》や、スタンダードの《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》や《マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ》を歌い上げることに徹している。
収録された曲目をご覧になればお分かりのとおり、バラード中心で構成されたアルバムだ。
そして、その演奏のどれもが、まるで邦画の感動的なクライマックスシーンを彩るかのようなサウンドで、ひとり酒を飲みながら音楽に浸るには、もってこいな内容であることには間違いない。
一流ジャズメン勢ぞろい
メンバーも、カークランドのほか、ギターはジム・ホールだし、ベースはエディ・ゴメス、ドラマーはグラディ・テイトと一流の楽器奏者ばかり。
これで日野が情感を込めてコルネットに息を吹き込めば悪い仕上がりになろうはずもない。
だからこそ、惜しい。
これだけの腕っぷしの良いジャズマンを揃えながらも、有名バラードの演奏に徹してしまって良かったのだろうか?と。
もちろん、そういう企画、コンセプトのアルバムということで制作されたのだから、いまさら文句を言っても仕方ないことは重々承知している。
アレンジには佐藤允彦を起用していることからも、制作陣の力の入れようは推して知るべし。
また、ストリングスがバックについているので、カークランドの出る幕は無いのは仕方のないことなのだが(ちなみに、ヒノテルのもうひとつのリーダー作『ピラミッド』でのカークランドは溌剌としています)。
しかし、今さらとなっては無いものねだりとなってしまうが、才人カークランドのピアノをもっともっとフィーチャーした演奏があれば良かったのにという心境になるのは、やっぱりスティングの洗礼を受けてしまったことが大きいのかもしれない。
ちなみに、このアルバムは、どこまでもメローでムーディな要素を追求しているのだろう、ドラマーのグラディ・テイトの甘いヴォーカルも聴けるというオマケ付きです。
記:2017/11/29
album data
TRANCE BLUE (CBS SONY)
- 日野皓正
1.My Funny Valentine
2.Alone,Alone,Alone
3.Black Orpheus
4.My One And Only Love
5.Green Sleeves
6.But Beautiful
7.Nature Boy
8.Hold My Hand
9.Lush Life
日野皓正(cor)
Kenny Kirkland (p)
Jim Hall (g)
Eddie Gomez (b)
Grady Tate (ds,vo)
with strings section
1984年11月-1985年01月