ア・トリビュート・トゥ・キャノンボール/ドン・バイアス
動画レビュー
バドの右手
バド・パウエルの右手が繰り出すシングルトーンの芯の太さは、並大抵ではない。
「ジャズ書」を紐解くと、彼の右手はホーンライクなシングルトーンを弾き、ピアノのシングルトーンの旋律がホーンの旋律と拮抗し得たという旨が書かれているが、まさにそのとおり。
そして、ピアノの単音だけの旋律で、まるで管楽器のように弾くという行為が、アイデア倒れに終わらなかったのは、一にも二にも、パウエルの右手のシングルトーンが「強かった」からにほかならない。
歴史に残った説得力
もし、パウエル以外の凡庸なピアニストがこのアイデアを思いつき、実行してみたところで、果たしてこの奏法が生き残ったかどうか。
多くの後進のピアニストたちに影響を与えたのかどうかは、はなはだ疑問だ。
パウエルが、このアイデアを実行したから、パウエルの弾くピアノが、このアイデアを裏付けるだけの「音の説得力」を有していたからこそ、このアプローチを試みる多くの追随者が現れたのだろう。
すなわち「パウエル派」。
どんな時代も、常に、革新的なアイデアや、斬新な試みは生まれるものだ。
しかし、それを裏付ける、実力、音の説得力がなければ、世に認知されることなく、その場の局地的な思いつきの音として、時代に埋もれ、いつしか忘れ去られる運命を辿る。
幸いなことに、パウエルの場合は、試みを裏付けるだけの表現力を有していたがために、ジャズピアノの歴史に新たな1ページを書き加えることが出来たのだ。
ジャズを聴いている
そんなことを考えながら、このアルバムを聴くと、あらためて、パウエルのシングルトーンの強さに酔いしれてしまう。
本当に彼の右手は、まるでホーンだ。
いや、ホーン以上の音の存在感かもしれない。
芯が固く、強い。
もちろんドン・バイアスのテナーも勿論素晴らしい。
コールマン・ホーキンス的な「うねっ!」もありながら、前に強く押し出てくる「バリッ!」とした迫力もある。
そして、そのような魅惑的なテナーのソロが終了し、パウエルにソロオーダーが回ってきたときの、「まってました!」とばかりに勢いよく飛び出すパウエルのピアノがとても生き生きした躍動感に満ち溢れている。
録音も良い意味でジャズ的なメリハリがくっきりしているため、このアルバムを聴いていると、ものすごく当たり前なんだけれども、「ああ、今自分はジャズを聴いているんだな」と言う事実を噛み締め、幸福なひと時にひたることが出来るのだ。
記:2007/07/22
album data
A TRIBUTE TO CANNONBALL (Columbia)
- Don Byas
1.Just One of Those Things
2.Jackie My Little Cat
3.Cherokee
4.I Remember Clifford
5.Good Bait
6.Jeannine
7.All the Things You Are
8.Myth
9.Jackie My Little Cat
10Cherokee" [unissued alternate]
Don Byas (ts)
Bud Powell (p)
Pierre Michelot (b)
Kenny Clarke (ds)
Cannonball Adderley (as) #10
Idrees Sulieman (tp) #5-8
producer:Cannonball Adderley
1961/12/15