ウナ・マス/ケニー・ドーハム

   


Una Mas

サンパウロも良いよ

ケニー・ドーハムの60年代ブルー・ノートのヒット盤。

当時のドーハムは40歳。

リラックスしてのびやかなトランペットを奏でるケニー。

「静かなる男」、ここでは熱い!

ノリの良いタイトル曲。

ボサノバとハードバップが合体した、気持ちの良いリズム&メロディ。

ボサ的でもあるが、《サイドワインダー》的なジャズロック的リズム。

15分以上の長尺演奏だが、長さがまったく感じられない。

「うなぁ~ますっ!」の掛け声で、一旦終了した演奏が再開する。

マイルス・クインテット加入前のトニーとハンコックが参加。

当時のトニーは17歳。若い!

当時のハンコックは23歳。若い。

ジョー・ヘンダーソンの初レコーディング作品。

つまり、当時のイキのいい新人たちと共演しているドーハム。

ジョーヘン、これを機に、ジョーヘン、ブルーノートと契約。

2ヶ月後に『ページ・ワン』を録音。

どの曲もヘンダーソンのプレイが熱い!

彼独特の、うねうねブロウが、既にこの頃から全開!

上記に羅列したようなことを書こうと思った。

しかし、やめた。

試みに、「una,mas,kenny,dorham」というキーワードで検索をかけてみましょう。

ヒットしたページのほとんどに、上記の内容のどれかが書かれているはずだ。

どこにでも書かれている事柄や、言い尽くされたことを改めて繰り返すのも、知っている人には耳タコだと思うので、矛先を変えて、あまりスポットが当てられてないラストの曲《サンパウロ》について書こうと思う。

正直、タイトル曲の《ウナ・マス》ばかりに浮かれて、それ以外の曲はキチンと聴いていなかった私。

しかし、今回、レコードでいえばB面にあたる曲を改めて聴いてみたら、こちらの演奏も中々良いことに気がついた。

特に《サンパウロ》。

この曲、一瞬、ホレス・シルバーの曲と演奏に聴こえませんか?

テーマの部分だけをかけて、トランペットがブルー・ミッチェル、テナーがジュニア・クック、ピアノがシルバーですよ、と言われたら、きっと私だったら、「なるほど、ホレスならではのラテンタッチの曲だねぇ」などと言いながらコロリと騙されてしまいそうだ。

もちろん、これはドーハムのオリジナル。

彼が南米ツアーで、サンパウロを訪問した際に書かれた曲だ。

熱気と哀愁がうまい具合にブレンドされた名曲だと思う。

たとえホレスっぽいテイストだとしても……。

いや、逆に言えば、ジャズ屋さんが、ラテンを意識した作曲と演奏をすると、こういうテイストになるのだと考えられなくもない。

サンパウロの熱気と、熱気の中にも漂う倦怠感、そして哀愁。

私はブラジルへ行ったことはないが、まるでサンパウロの街の中にたたずんでいる錯覚に陥るほど、この土地の「空気感」を曲が運んでくれているような気がする。

名曲だし、名演奏だと思う。

キャッチーなタイトル曲の陰に隠れつつも、密やかに主張している力強いこの曲。

たまには、気分を変えて《サンパウロ》の、熱く、そして哀愁漂う演奏に耳を傾けてみるのは如何?

記:2002/05/10

album data

UNA MAS (Blue Note)
- Kenny Dorham

1.Una Mas (One More Time)
2.Straight Ahead
3.Sao Paulo

Kenny Dorham (tp)
Joe Henderson (ts)
Herbie Hancock (p)
Butch Warren (b)
Tony Williams (ds)

1963/04/01

 - ジャズ