裏ブルーノート/若杉実
しゃぶりつくしたと思っていたブルーノートにも、まだまだ鉱脈が残っていた。
そう感じさせてくれる本だった。
これは、初心者向けの入門書でも、ブルーノートというレーベルが発表したアルバムのガイド本でもない。
多くのブルーノートの入門本や紹介本は、番号順に並べられたり、あるいはジャズマン別に分類・整理されたりして、たしかに読みやすく体系的にブルーノートの諸作を知ることが出来る作りになっている。
しかし、この本は最初から、このような「お勉強的」な要素、あるいは「カタログ的」な要素を最初から放棄している。
純粋にブルーノートの作品を介して、読み応えのあるテキストを構築しようという試みだ。
のっけから紹介されるアルバムがアルフォンス・ムザーンの『ファンキー・スネイクフット』というあたりも、「凡百のブルーノート本とは違うんだぜ」というこの本の立ち位置を表明しているかのようだ。
そして、2枚目がアンドリュー・ヒルの『音の戦士(ジャッジメント)』だからねぇ。
ちょっとカッコ良すぎない?
しっかりとした史実と知識に裏打ちされた内容であるため、従来のジャズ評論とは一風変わった内容になってはいるが、正確にはジャズ評論と呼ばれる類のテキストではないだろう。
また、ブルーノートのアルバムにまつわる物語としても読める内容のものもあるが、ひとくちに「物語」といっても「半可通なジャズ知り作家」が誤解と妄想で築き上げる安っぽい人間模様や恋愛小説のようなものとは一線を画した地に足の付いた骨太で、しかも想像の翼を広げる余地のある内容となっている。
それはユニークな切り口と、作者独特の文体によるものが大きい。
似たりよったりのジャズ評論に辟易としている全国約5000人くらいのジャズマニア、かつ読書好きには新しい「読むジャズの愉しみ」を提供してくれるかもしれない。
ひととおりブルーノートの学習をし、ブルーノートのアルバムをひととおり聴き、ブルーノートのことを分かった気分になっている人こそ、この本を手に取って欲しい。
まだまだ、ブルーノートには豊穣な鉱脈が潜んでいるということを改めて思い知ることだろう。
逆にブルーノートのアルバムを数枚しか聴いていないという人は、この本のマニアックな楽しみを慌てて享受しようとはせず、まずは100枚ほどブルーノートのアルバムを聴いた上で本書を紐解いたほうが、「活字ジャズの愉しみ」をより深く味わえるのではないかと思う。
さらに、「そもそもブルーノートって何?」という人は、まずは何でもいいから一冊、ブルーノートの入門書を読んでみると興味の熱量が一気に上昇することだろう。
個人的には、油井正一・著の『ブルーノートJAZZストーリー』(新潮文庫)をオススメしたい。
私自身もこの本でブルーノートの「お勉強」をしたものだが、そんな読む時間や買うお金の余裕がないよという人は、以下にリンクしておく、CDショップ「サウンズパル」の高良俊礼氏の「ブルーノート物語」をご覧になると良いだろう。
記:2017/10/03