ヴォランティアード・スレイヴリー/ローランド・カーク
2021/02/24
巨大な感動と快楽
ローランド・カークは巨大な胃袋の持ち主だ。
いや、カークという存在自体が、すべてを飲み込んでしまうブラックホールのようなものなのかもしれない。
およそ、ブラック・ミュージックと呼ばれるすべての音楽、ソウル、ゴスペル、ブルース、ジャズ、そしてモータウンといった音楽を等しく飲み込み、どう考えても「カークの音楽」としか形容出来ないテイストの音を吐き出すローランド・カーク。
そして、カークの全身から発散されるサウンドのなんと快楽的なことよ。
「ジャズ・ミュージシャン」というワクだけで括るのは、あまりにも勿体無い。
すべてのブラック・ミュージックを体現している人だと言っても過言ではないと思う。
この『ヴォランティアード・スレイヴリー』というアルバム、喩えてみるならば、ごった煮的な「鍋料理」だ。
それも、かなりドロドロで、“特濃”な鍋料理。
およそブラック・ミュージックと呼ばれているすべての「具」を、カークという鍋の中に放り投げたら、思いもよらぬオイシイ料理が出来上がってしまいました、といった趣きのアルバムが、『ヴォランティアード・スレイヴリー』だ。
かなり濃い目のくせに、ソウルミュージック特有の甘さと柔らかさをも併せ持つサウンド・テイスト。
スティービー・ワンダーの名曲《マイ・シェリー・アモール》も、
アレサ・フランクリン(あるいはディオンヌ・ワーウィック)の《アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー》も、
ジョン・コルトレーンの『至上の愛』も、
ビートルズの《ヘイ・ジュード》も、
サンタナの《アフロ・ブルー》も、
《ラッシュ・ライフ》のようなスタンダードナンバーも、
カークの前では、等価なのだ。
しかも、それらが、単なる博物館の展示物とはならずに、カーク流のサウンドに変容を遂げ、生き生きと躍動感溢れるサウンドとして甦っているところがスゴイ。
どこまでも、そして、どこを切ってもカーク風のサウンドなのだ。
前半はスタジオ録音、後半はニューポート・ジャズフェスティバルでのライブ演奏という組み合わせ。
個人的には、《マイ・シェリー・アモール》や《アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー》が収録されている前半の方が好みだ。
原曲以上に快楽指数の高いのではなかろうか。
とにかく、次から次へと溢れ出る肉厚なサウンドの中には、不思議な感動と、底なしの快楽が潜んでいる。
理屈抜きに、大音量で楽しみたいアルバムだ。
記:2002/03/24
album data
VOLUNTEERED SLAVERY (Atlantic)
- Roland Kirk
1.Volunteered Slavery
2.Spirits Up Above
3.My Cherie Amour
4.Serch For The Reason Why
5.I Say A Little Prayer
6.Roland's Opening Remarks
7.One Ton
8.Ovation & Roland's Remarks
9.A Tribute To John Coltrane
a. Lush Life
b. Afro-Blue
c. Bessie's Blues
10.Three For The Festival
Roland Kirk(ts,fl,manzello,strich,gong,whistle,vo)
Charles McGhee(tp)
Dick Griffin(tb)
Ron Burton(p)
Vernon Martin(b)
Charles Crosby,Sonny Brown,Jimmy Hopps(ds)
Joe Habao Texidor(per)
The Roland Kirk Spirit Choir(backing vocals)
Track 1-5
1969/07/22-23 Recorded at:Regent Sound Studios,NYC
Track 6-10
1968/07/07 Recorded Live at :The Newport Jazz Festival