「目玉曲」は、正直あまり好きではないのだが……/ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン
ジャズ度濃厚ジャケ
「ジャケットがすべてを物語っている」といっても過言ではないだろう。
《帰ってくれればうれしいわ》の歌唱があまりに有名なこのアルバム。
クリフォード・ブラウン(tp)の参加、クインシー・ジョーンズがアレンジャーとして参加していることも評価の底上げに貢献している。
ジャズを知らぬ人にも「ジャズ」を感じさせるインパクト。
あっぱれ!
イントロのアレンジがね……
「ニューヨークのため息」と形容され、とくに日本での評価の高いヘレン・メリル。
その形容通り、彼女のデリケートな絹のような歌声は、聴く者のささくれた心を丁寧に癒すだけの柔らかい力がある。
そういった意味では、私の場合、《帰ってくれればうれしいわ》よりも《ドント・エクスプレイン》のようなウィスパー系の歌唱が好きだったりするんだけれどもね。
そうそう、正直言っちゃうと、私、このアルバム、嫌いではないけれども、《帰ってくれればうれしいわ》がいまひとつ好きになれないのですよ。
とくにイントロのアレンジが、まったくツボにこない。
大袈裟というか、安っぽく感じる。
ヘレンが、
♪ユービー・ソー・ナーイス(You'd be so nice...)
と入るまでの誘導は見事だし、このアレンジ以外はありえないとは思うんだけれどもね。
好みの問題に尽きるのだけれども、私の場合は、このイントロのアレンジのために評価が低くなってしまっている。
後に続く肝心のヘレン・メリルの歌唱は悪くはないんだけれどもね。
ジャズ界の「一発屋さん」?
でも、彼女って、ある意味凄いよね。
この一曲だけで、「帰ってくれればの人」という認識を一般に定着させちゃったのだから。
もちろん、このアルバムは彼女のキャリアの初期の吹き込み。
その後も彼女は数多くのレコーディングを残している。
にもかかわらず、いまだ世間の認識は、「帰ってくれればの人」。
これ、ある意味凄いことだよね。
1954年。
つまり、いまから52年前の、日本でいうと昭和29年に歌った歌のイメージが半世紀以上の長きにわたって定着しているのだから、ヘレン・メリルは。
1954年といえば、昭和29年。
昭和29年の日本の歌といえば、春日八郎の《お富さん》や、美空ひばりの《伊豆の踊子》が発表された年だ。
この年に歌われた曲が、平成の世になってもなお親しまれているということになる。
ヘレン・メリルは、もちろんこのアルバムを発表した後も、小傑作を出してはいるのだけれども、これを超える歌唱と認知度の「代表作」は出ていない。
ある意味、ジャズ界の「一発屋さん」なのかもしれない。
個人的には、《帰ってくれれば~》よりもグッとくる歌唱はたくさんあり、たとえば『ザ・ニアネス・オブ・ユー』などに収録されているいくつかの曲に感じる。
しかし、やっぱり、あのジャケットのビジュアル・インパクトが《帰ってくれれば~》を不動の人気曲に定着させたんだろうな。
もし、このアルバムのジャケットが、あの写真じゃなかったら、《帰ってくれれば~》は、これほどまでに人気をキープしつづけただろうか?と時々考えてしまう私がいる。
というか、どうでもいいこと考えてるよなぁ。