借金帳消しレコーディングで聴けるマイルスの控えめラッパ

   

早朝に穏健なマイルス

朝、コーヒーを飲みながら、何気なくマイルスの『ブルー・ムーズ』をかけたんですね。

地味なジャケット。

それほどインパクトのある演奏もないし、歴史的な問題作でもない。

だから、マイルスの中では、あまり聴く気をそそらないアルバムの一つなんだけれども、まだ、時刻は4時半。

女房も息子も寝ていることだし、比較的、穏健で中庸なものはないかなぁなんて思っていたら、これに行きついたわけ。

ところが、久々に、本当に久々に聴いたら、これがまたイイんですわ。

なにがいいって、普通にいいところがイイ(笑)。

……としか言えないんだよなぁ、これが。

夜と朝の静寂に

マイルスの必要以上にスカさないで、真剣に曲に取り組んでいる姿が良い。

いきなり、ひんやりと夜と朝の境目の静寂を彩るミルト・ジャクソンのヴァイブ。

《ネイチャー・ボーイ》の出だし。

つづいて、神妙な表情で旋律を重ねてゆくマイルスのミュート・ラッパ。

まだ夜の尾をひいている静寂にうまく溶け込むかのように部屋の中に響き渡る。

やがて、少しずつ空が白みはじめてきたころに、のほほんとしたホンワカリズムに乗って、マイルスののびやか、スムースなトランペットがリラックスしてアドリブを繰り広げる《ゼアズ・ノー・ユー》で、今日もまた1日イイことがありそうだぞ、という予感。

控えめマイルス

ここで吹かれているマイルスのトランペットは、決して巧みであるとはいえない。

しかし、なんだか、とっても味があるんだよね。

ひたむきな青少年が詩を朗読しているような(笑)。

自分の書いた詩を、一生懸命に、間違えないように慎重に朗読している姿が思い浮かぶ(笑)。

きっと、マイルス・デイヴィス、このトランペットのスタイルのまま成長を止めたら、きっとジャズ史の中では大きく取り上げられない、「味のあるトランペッター」として一部のマニアのみにしか知られない存在で終わってしまっていることだろう。

まだ突出した「華」のようなものがないからね。

しかし、やっぱり、この時期のマイルスのトランペットは謙虚でいいよね。

後年のトランペットが謙虚じゃないからイヤだというわけではないんだけどさ、あのマイルスも、坊やクンだった時期もあったんだよな、とほほえましくなってくる。

謙虚で控え目なぶん、そのぶん、アクや心にぐさっと突き刺さる要素は乏しいけれども、でも、少なくとも、朝のコーヒーを旨くするだけの力量はあるし(笑)。

ちなみに、バックで終始控えめにドラムを叩くのは、なんとエルヴィン・ジョーンズ。

なんだか、「やっつけ感」が漂いまくりだが、このなんともダル~い感じのドラムがかえって緩くて良い。

借金帳消しレコーディング

一説によると、マイルスもエルヴィンも、当時チャールズ・ミンガスに借金をしていたらしい。

しかも、なかなか返さなかったらしい(笑)。

「このやろう、金は演奏で返せ!」とばかりにミンガスは、この二人を無理やりレコーディングに付き合わせた、というのが本盤の裏事情。

しかし、そういった背景とは裏腹に、マイルスはエルヴィンとは違って、きちんと誠実にトランペットを吹こうとしている姿が音から伝わってくる。

たとえ、借金返済のためとはいえ(笑)。

album data

BLUE MOODS (Debut Records)
- Miles Davis

1.Nature Boy
2.Alone Together
3.There's No You
4.Easy Living

Miles Davis (tp)
Britt Woodman (tb)
Teddy Charles (vib)
Charles Mingus (b)
Elvin Jones (ds)

1955/06/09

 - ジャズ