坂本龍一の《async》と『エスペラント』の“打”音
哀しく心地よく、マインドがヒリヒリ
ここのところ、教授(坂本龍一)の『async』ばかり聴いている。
なんだかものすごく哀しく心地よい気分になれるのと同時に、教授のキャリア初期から一貫して根底に流れ続けている攻撃性のようなものも感じられ、教授の音楽性の中においては、一貫して流れ続けている聴き手のマインドをヒリヒリしさせてくれるものも含めて皮膚と内臓で受け止めている。
ちなみに、先日発売された『MUSIC MAGAZINE』の5月号は坂本龍一特集だ。
本人のインタビューも掲載されているので、すぐに購入した。
しかし、いまだにページはめくっていない。
もし、インタビューを読んでしまったら、日々聴き続けているサウンドの謎の種明かしに触れてしまうような気がして、読もうという気分にはなれないのだ。
いや、その逆で、猛烈に読みたい。
しかし、我慢をしている。
もう少しこのアルバムを聴きこんだ上で、作者自身の言葉に触れるのも悪くはないだろうと思っているからだ。
よって、アーティスト本人の言葉や、評論家による解説などの予備知識はまったくない状態で思ったことをつらつらと書いてみようと思う。
大好きなアルバム3枚
大好きな坂本龍一のアルバムを3枚挙げろと言われれば、季節や気分による変動はあるにせよ、まずは第一に『B-2 unit』だろうね。
個人的にはベスト。
というか、モスト・フェイヴァリット。
このアルバムが一貫して一位。
自分の人生の中においては、このアルバムの王座は揺るぎないものでしょう。
多分12歳の時、そう、世はYMOのブームが真っ只中だった時に初めてこれを聴いたときの衝撃は忘れられない。
何度も何度も「音の謎」に一歩でも近づこうとワクワクして聴き返していた知的興奮をいまだに引きずっているって感じ。
次いで、『CHASM』と『エスペラント』ですかね。
他にも、まだまだ大好きな教授の作品はあるのだけれども、上記3枚は私の中では本当に特別な存在だ。
そして、この3枚とはまったく違う手法、音楽性であるにもかかわらず、『async』の根底に流れる緊迫感、攻撃性は、上記3枚と共通したものを感じる。
『エスペラント』の硬い音
特に、『async』の至るところで聴くことが出来る重くて硬質な音色に触れた時には、私は真っ先に『エスペラント』を思い出した。
このアルバムで衝撃を受けたのは、やはり冒頭の《A Wongga Dance Song》なんだけど、それと同じくらいB面の(当時はレコードで聴いていたので)、《A Carved Stone》も大好きだった。
あの人工的な石がコロコロと転がるような独特な音色は、当時出回りはじめたフェアライトCMIならではの音色で、従来のアナログシンセでは決して出せない音色に魅了されていたものだ。
『エスペラント』の音色はデジタルシンセのロールスロイスとでもいうべきフェアライトの音色で、重くて硬質な音色が放たれていたけれども、『async』の硬い音色は自然の打楽器の音色。
このような違いはあるけれども、音の輪郭の奥底に鈍いつややかさを秘めた音色には共通項を感じている。
特に、タイトル曲の《async》にそれが顕著だよね。
とにかく、私好みの硬くて重くて鈍くて艶やかな音色が『エスペラント』の頃より一貫して変化していないのではないかと感じるのです。
もう、音色だけで聴けてしまう本当に気持ちの良い作品なのだ。
音色以外のことについては、また別の記事で。
感想だけで10記事くらいかけちゃいそうだよ、『async』は。
それだけ素晴らしいアルバムなのだ。
記:2017/05/07