ジャズ喫茶「いーぐる」で、よくリクエストをした2枚のアルバム
今も昔も変わらない。
わが心の故郷、ジャズ喫茶「いーぐる」。
学生時代は、ここでアルバイトをしていました。
ここで聴いた名盤や、新譜(当時はM-BASE派やメセニーの新譜がよくかかっていた)が発する音の粒子が、知らず知らずの間に私の皮膚から体内に進入し、これが今に続く私のジャズ観を形作っているように思います。
そもそも、この店とマスターの後藤さんを知るキッカケとなったのは、後藤さんの『ジャズ・オブ・パラダイス』を読んだこと。
「100枚聴くまで好き嫌いは言うな!」というノッケからの提言に、「キビしぃ~、だけど、きっとその通り!」と感じ、「この店でバイトしてぇ~!」と思ったことがキッカケです。
私のジャズの原点が渋谷の『スウィング』だとすると、そこで芽生えた「ジャズ心」を大きく育ててくれたのが四ツ谷の『いーぐる』なのです。
まさか、この本を出版し版元(出版社)で働くことになろうとは。
まさか、この本の編集者の方と親交を持ち、「ジャズ本活字デビュー」のキッカケをいただくことになろうとは。
参考記事:私のジャズ活字デビュー本
まさか、「後藤雅洋マスターの店で働いていたの君? それってスゴいよ」とTFMのプロデューサーの目にとまったことがキッカケで、2年間ジャズ番組を持たせていただこうとは。
そんなことは、アルバイトをしている学生時代には夢にも思わなかったことです。
今でも、たまにお邪魔します。
いつも変わらぬ店内。
心地よい音量と音質で鳴り響くガッツ溢れるジャズ。
客として訪れたときは、選曲係が流すレコード(とCD)の流れに身をゆだねることが一番心地よいのですが、時折、体内にエネルギーを注入したいときは、ドラムが良い音でカッコ良いアルバムをリクエストすることもあります。
一番多くかけてもらったのは、たぶんマイルスの『フォア・アンド・モア』だと思います。
とにかく、トニーのシンバルのツブ立ちがものすごくクリアで綺麗なんですよ、「いーぐる」で聴くと。
自宅では、絶対にこんな音出せない。
それに、ものすごくエネルギッシュ。
もちろん、マイルスのトランペットも輝きと厚みがあって、それはもう細胞がぶるぶる震えるのですが、やはりトニーのドラム、とくにシンバルが気持ちよくて、気持ちよくて。
ついで、もう1枚挙げるとすると、バド・パウエルの『アット・ザ・ゴールデン・サークル vol.3』のA面ですかね。
>>アット・ザ・ゴールデン・サークル vol.3/バド・パウエル
A面は《スウェディッシュ・ペイストリー》1曲のみ。
長尺演奏ではあるのですが、長尺演奏を長尺と思わせない「ピアノ力」を持つところがパウエルの凄いところ。
とくに凝ったアレンジをしているわけでもないし、ピアノトリオなんだけど、ドラムとベースとピアノのコンビネーションが「三位一体!」というわけでもないんだけど、というより、パウエルはただ単に気の済むまで弾いているだけなんだけど、なぜか名演に聴こえてしまう。
それとアルバイトをしている時に気が付いたんですけど、不思議なことにパウエルのピアノが店内に鳴り響くと、店の空気がビシッとしまるんですよね。
このシャキッとした音空間の中で、一時期原稿を書きまくっていたことがあります。
他にも、それこそ数え切れないほどたくさんのアルバムを「いーぐる」のスピーカーから聴きましたが、やっぱり上記2枚は格別。
もし、訪問することがあったら、試しにリクエストしてみたら?!
あるいは、後藤マスターがお書きになられた『ジャズ喫茶 四谷「いーぐる」の100枚』の中のアルバムをリクエストすれば、少なくとも「場違いな恥ずかしさ」を味わうことはないでしょう。
記:2016/02/29