敦賀明子 live in TOKYO TUC

   

ハーレムドリームズハーレムドリームズ/敦賀明子

全身でオルガンを弾いている!

先日、「東京タック」で行われた、オルガン奏者・敦賀明子のライブに行ってきた。

私、じつは、オルガン大好き人間なんですよ。
音色も好きだし、それ以上にメカの塊としてのオルガンを眺めるのが好き。

ヴィブラフォンとともに、ライブハウスでは滅多にお目にかかる楽器ではないので、新型ハモンドXK-3cの雄姿を最前列の超至近距離で拝めたことは、とても嬉しい体験だった。

もちろん、敦賀敦子さんのプレイもしっかり堪能できた。

弾いた瞬間から音が減衰するピアノと違って、オルガンは音が伸びるので、バラードがよく似合う(もちろんノリノリのナンバーもいけるけど)。
だから、1stセットで演奏された《ボディ・アンド・ソウル》が良かったかな。

あと、敦賀さんってすごく華奢で小さな方なんだけれども、その小っちゃい身体が繰り出す豪快なプレイが見ていて楽しかった。
もう身体全体を使ってオルガンを操っているって感じで。

オルガンでは多用されるグリッサンドという、鍵盤の上に指を滑らせる奏法があるんだけれども、それをやるときの彼女の表情が良かった。

口を尖がらせて「よっしゃ!」って表情で鍵盤をこねくりまわすんだけど、その表情と出てくる音の一致感が見ていて楽しいの(笑)。

これも至近距離で演奏を味わえるライブならでは。

さらに、至近距離といえば、最前列ゆえ、彼女のフットペダルの足捌きもじっくり観察出来たのも良かった。

たとえば、ベースラインが、

ミ・ミ♭・レ・レ♭

とクロマティカル(半音階的)に下がるとするじゃない?

そうすると、鍵盤でいうと、
白鍵→黒鍵→白鍵→黒鍵
という順で交互に足でペダルを踏んでいくわけだけれども、彼女の足捌きは、
踵(かかと)→爪先→踵→爪先
と足首を軸に足を回転させるような要領で効率よペダルをキックしていくわけですよ。

ミ→ミ♭→レ→レ♭
白 黒  白 黒
踵 爪先 踵 爪先

という順で、非常に無駄のない動きに感心。

というか、エレクトーンとかやっている人にとっては常識な足捌きなのかもしれないが、私、エレクトーンはよく知らないので、こういうことでも、至近距離から発見できると嬉しくなっちゃうのよ(笑)。

オルガン、ギター、ドラムのトリオ

あ、そうそう、肝心なフォーマットを書いてなかった。

オルガントリオ、です。オーソドックスな。
つまり、オルガンとギターとドラムスね。

ギタリストは、本来参加予定だった人がノロウイルスに感染してしまったらしく、急遽、森たかひとというギタリストがトラで参加。

急遽の参加にもかかわらず、アンサンブルは無難にまとまっていたと思う。

ま、しきりに目配せしあったり、細かく敦賀が指示を送っていたからこそ、というのもあるが、4バースからテーマに戻る際に、頭に手を当てるシーンなんかは、ジャズ研時代のジャムセッションを思い出して、ちょっと微笑ましかった。

ウェスチックなギターもよろし

森たかひとは、ウェス・モンゴメリーよろしく、親指弾き中心にピッキングをするギタリストだったが、シングルトーン中心のアドリブで、オクターブ奏法はほとんどしていなかった。

よく歌うギターではあるんだけれども、アーティキュレーションがちょっとモコモコしていたきらいがあった。
このモコモコっぷりが、逆に敦賀のオルガンとうまくブレンドされていて効果は出していないこともなかったが、ちょっと切れが悪い感じ。

彼には悪いが、個人的にはウェス・モンゴメリーの凄さを改めて再認識する結果となってしまった。

ウェスの親指弾きは、非常にソフトでマイルド。音価もリッチで、音と音がとても綺麗にレガートしている。それでいてフレージングが驚異的にシャープで、ま、一言で言えば、音が立っているんですね。

あまりにウェスの演奏を当たり前のように聴きすぎていたので、ウェスと同じ奏法のギタリストの演奏を聴いて、改めて、ウェスってじつは、そうとう難しいことを難なくやっていたんだな、ということを改めて実感した。
というか、比べる対象が大物すぎるか……(笑)。

でも、ジャズってそういうところありませんか?

達人になればなるほど、難しいこと、微妙な味わいをいとも簡単そうにやってのけてしまうので、聴いているほうもスンナリと受け止めてしまって、演奏上の難しさが分かりにくくなるってこと。

たとえば、私はスタン・ゲッツなんかは、最初のころはそう感じていた。

彼の凄さ、すばらしさに気づくのにはちょっと時間がかかったね。

アマチュアの色々なテナー奏者と共演しているうちに、「ゲッツの流麗さ、スムースさ、メロディアスさってのは、じつは、ものすごく大変なことだったのだ」と気付いたぐらいだから。

ま、それはあくまで彼のソロ単体での話なので、全体のアンサンブルに関しては森たかひとのギターは問題なく溶け込んでいたと思う。

やんちゃ娘な敦賀のオルガンを暖かく見守り受け止めるお兄ちゃん的役割をギターで担っていたので、ライブにおけるショーパフォーマンス的にはギター単体のプレイがどうのこうのというのは野暮な話なのかもしれない。

敦賀明子のオルガンテイスト

敦賀明子の簡単なプロフィールを記載すると、兵庫県の尼崎市出身。

MCのアクセントで関西出身だということはすぐに分かったが、「~してはる」といった言葉使いから、最初は京都かと思ったんだけど、尼崎なのね。

私、昔、西宮に住んでたこともあるから、近所やわ(笑)。

3歳からオルガンを始め、クリスチャンの母親の影響で教会音楽に親しんでいたそうだから、まさにオルガンを弾くために生まれてきたような人ですね。

豪快でダイナミックな演奏をする彼女ではあるが、ひとつ個人的にリクエストしたいのは、豪快さにくわえて、もうちょっとネチッこさが加わると最高なんだけどな。

彼女のオルガンは、その豪快さとは裏腹に、淡白、あっさりなのが全体的な印象。まだまだ「お上品」なのよね。

人種の問題、育ちの違い、文化の違い、と言われてしまえば、それまでの話なのかもしれないが、もうちょい演奏にグリージーさとキッチュさが加われば、もう一皮剥けて高いところにいけると思うんだけど。

たとえば、私が好きな女性オルガン奏者にトゥルーディ・ピッツという人がいるんだけれども、技術的な面からいえば、明らかに敦賀さんのほうが上だと思う。

INTRODUCING THE FABULOUS TRUDY PITTS [12 inch Analog]イントゥロデューシング・ザ・ファビュラス・トゥルーディ・ピッツ

ただ、トゥルーディ・ピッツのオルガンが妙に私の耳を惹きつけてやまないのは、まるで合成甘味料が混入されたかのような、トゥーマッチなぐらいの甘過ぎなフレーズや、クラクラするほど露骨に上下するボリュームペダルで繰り出される音量の落差。

べつに、トゥルーディを目指せといっているわけでもないし、トゥルーディの要素を彼女に求めているわけでもない。

ただ、少なくとも上品とはいえない化学調味料、合成着色料の要素がもう少し混入されたほうが、あるいは、カレーのルーに最後に入れるチャツネのような要素が微量に混入されれば、もっとスケール大きく、彼女の確かな技量がスケールアップされるに違いないと思った。

では、そのスプーン一杯の甘味料やチャツネな要素は? というと、これはもう「経験」でしかないのかもしれない。

ニューヨークに渡って7年。

今月末に再び現地に戻り、ルー・ドナルドソンとの共演などさまざまなスケジュールが待ち構えている彼女。このような本場での活躍の堆積がより一層スケールアップの糧となることだし、次の「来日」の際は、より一層スケールアップした演奏を浴びてみたいと思った。

色々と好き勝手に書いたが、ライブ自体は、とても楽しめました。

ありがとう!

記:2008/01/26

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>>イントロデューシング・ザ・ファビュラス・トゥルーディ・ピッツ/トゥルーディ・ピッツ

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