バッカナル/ガボール・ザボ

   

地味で独特、わかりやすいけどミステリアス

いけいけ、ノリノリなギターが好きな人からしてみると、ガボール・ザボのギターって、なんだか地味で、つかみどころがないように感じるようです。

実際、私もそういう時期が長く続きました。

地味だし、特におおっ!と乗り出す要素もなく、だけど、ちょっとなにか引っかかってヘンな感じだな~って。

やっぱり、ザボのことを「凄いゾ、凄いゾ」と勧めてくるザボ好きって、100パーセントギター弾きなんですよね。

ギターをやっているからこそ、ギターをやっていない人には気付きにくいツボや凄さが分かるんでしょうね。

そして、勧めてくる。
「ザボ良いよ、ザボ聴いて」と。

で、言われるがままに、時おり聴いていると、じわじわだけれども、少しずつザボのユニークさが染みてくる。

たとえば、『バッカナル』というアルバムなんか、2曲目の《恋は水色》に代表されるポップなナンバーを中心に取り上げつつも、やっぱりザボのギターって、どこかしら、何かしら引っかかるものがある。

それはフレーズだったり、音色だったりもするんですが、結局のところ、彼のギターはオリジナリティの塊だということに尽きるわけです。

考えてみれば、ザボのように弾いているギタリストって皆無に近いんですよね。

サックスでいえば、ウェイン・ショーターみたいなものなのかもしれませんね。

強烈な個性を持っているにもかかわらず、どこをどう真似すれば彼みたいに演奏できるという具体的なポイントが探せないわけです。

結局のところ、五線譜上の音というよりは、発想や音楽に対しての考え方といった抽象的なところから思考をスタートさせなければならない。

おそらくザボの場合もそうなのでしょう。

彼なりの美学が色濃く反映されたギターの演奏。
ギターの弦のふるえが発する、そこはかとなき哀愁は、ハンガリー生まれで、ジプシーテイストの旋律が体内に流れているということもあるのでしょう(《ジプシー・クイーン》という曲も作曲しているし)。

地味かもしれないけれども、確実にワン・アンド・オンリー。

だからこそ、一度ザボの魅力に取り付かれた人は、「ギタリストの中ではガザール・ザボが一番好き!」とまで言わしめる人もあらわれるのでしょう。

決して奇をてらっているわけでもなく、難解なわけでもない。
しかし、どこか分かりにくい謎もある。

だから癖になる。

この『バッカナル』にしても、聴きやすく、親しみやすいナンバーばかりなんだけれども、なぜか微妙にクラクラする。

なんで?

その「なんで?」と思わせるところがザボの魅力なんでしょうね。

だから、ついついまた聴いてしまう。

そんなことを繰り返しているうちに、もう十数年が経過してしまっているという。

いまだに、手放しに「おいらはザボが好きだっ!」と言えない自分がいるわけですが、そういう距離感が長続くミュージシャンというのも珍しい。

きっと、これから先の10年も、私とザボはそのような付き合い、距離感でいるんだろうなぁなんて思いながら、ぼんやり『バッカナル』を聴いている今日この頃でありました。

記:2019/02/22

album data

BACCHANAL (Skye)
- Gabor Szabo

1.Three King Fishers
2.Love is Blue
3.Theme from Valley of the Dolls
4.Bacchanal
5.Sunshine Superman
6.Some Velvet Morning
7.The Look of Love
8.The Divided City

Gábor Szabó (g)
Jimmy Stewart (g)
Louis Kabok (b)
Jim Keltner (ds)
Hal Gordon (per)

1968/02/09

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