セシル・テイラー入門に最適なアルバムは?
セシル・テイラー入門に最適なアルバムは?
はい、ずばり、ブルーノートの『コンキスタドール』でしょう。
セシル・テイラーのアルバムの中では、聴きやすい部類に属し、ゆえに個人的にも愛聴している一枚だ。
演奏の凄さやインパクトの面から考えれば、マイケル・マントラーの『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』が最高傑作だとは思う。
確かにプレイ面ではそうかもしれない。
あの、怒涛のごとく襲い掛かってくるセシルのピアノは凄まじい衝撃があり、聴いた後の脱力感にはたまらないものがある。
しかし、このアルバムは、演奏のインパクトとは別の方向に向かった内容。
音に物語性があるのだ。
瞬間瞬間のインパクトや局面展開の意外さがテイラーの持ち味とすれば、このアルバムのストーリーテリングは彼の作品の中では異色かもしれない。
しかし、君臨と崩壊の予感、静寂から瓦解にいたるまでの流れ、静から動へのダイナミクスの移行が見事で、これほど豊かで実りのある即興演奏はテイラーの中でも屈指のものだと思う。
特に冒頭の数分。
一瞬の静寂から天空へ飛翔するかの如きテイラーの打鍵。これだけでも鳥肌モノ。
そして、メンバー一丸となって速度を上げ、一気にサウンドの構築から破壊までの道のりを疾走する様は本当に見事の一言に尽きる。
さすが、レコーディング前には入念にリハーサルをさせたブルーノートならではの方針が生きている。
そういった意味では、この『コンキスタドール』は、テイラーのみの音楽ではなく、ブルーノートのアルフレッド・ライオンの強固なレコーディング・ポリシーが反映された、ある意味ライオンとテイラーとのコラボレーション作ともいえる。
よって、後半にじわじわと演奏を盛り上げてゆく“分かりやすい”旋律と、それをなぞる管楽器のアンサンブルを聴くに、この演奏は即興が占めるパーセンテージはかなり低いのではないかと推測される。
『コンキスタドール』のみならず、ブルーノートのもう1枚のアルバム『ユニット・ストラクチャーズ』も、かなりの部分が作曲され、演奏に物語性が与えられているが、『ユニット・ストラクチャーズ』の音物語は、曲がりくねった長い道とでも言うべきか、少々難解でとっつきにくい。
もっとも慣れてくると、こちらの世界も難解なパズルがほどけた楽しみはあるにはあるが……。
その点、『コンキスタドール』のストレートな物語性は、非常に分かりやすく、テイラー入門者に最初にオススメしたい1枚。
これでゾクッとこなければ、セシル・テイラーは聴かんでもよろしい。
そう断言したくなるほどの内容だ。
スケール大きく、それでいてちょっと神経質な音楽物語に溺れてみようではないか。
album data
CONQUISTADOR (Blue Note)
- Cecil Taylor
1.Conquistador
2.With(Exit)
3.With(Exit)〔alternate take〕
Cecil Taylor (p)
Bill Dixon (tp)
Jimmy Lyons (as)
Henry Grimes (b)
Alan Silva (b)
Andrew Cyrille (ds)
1966/10/06
記:2007/12/19
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