サークル・ワルツ/ドン・フリードマン
儚く絶望的に美しい和音
エヴァンスを構築的にしたフレージング。
ハンコックを柔らかにしたようなヴォイシング。
これに、儚いほどのセンチメンタルさ加減をまぶせば、限りなくドン・フリードマンになる。
彼のナイーヴな一面と、露骨ではないが強固な構築性がバランスよく融合して生まれた、奇跡的に美しい1枚が『サークル・ワルツ』だ。
それにしても、タイトル曲《サークル・ワルツ》の儚さといったら。
テーマが終わると、すぐにベースソロ。
まるで、フリードマンのピアノからポロリとこぼれ落ちるかのようにベースソロはスタートする。
静かに沈みゆくチャック・イスラエルのベースを柔らかく包む、絶望的に美しい彼の和音。
かくも、ここまで柔らかく、儚い音を奏でられるのは何故か?
この疑問から、再びこのアルバムを手に取り、再聴を繰り返し、いつの間にかドン・フリードマンの虜になってしまうのだ。
音の磁力が風景をも変える
個人的にこのアルバムの中ではもっとも愛聴しているナンバーは2曲目の《シーズ・ブリーズ》だ。
むせ返るほどの潮の香り。
だけども、静かな海面。
青く穏やかな海が、私の眼前に広がり、明るい陽光とともに視界が静かに開けてゆく感覚に陥るのは、以前、モナコやニースで目の当りにした穏やかな地中海の記憶が呼び覚まされるからなのかもしれない。
フリードマンのピアノは、イーヴンかつフラットに弾こうと努めつつも、ところどころに生じる捩れがたまらなくノスタルジックな風景を紡ぎだし、彩る。
アドリブパートに突入後、すぐに展開される単音の連続弾きが、なぜか郷愁をかきたてられるのだ。
3曲目は、デイヴ・ブルーベックの曲がここまで美しかったのかと気づかせてくれる《イン・ユア・オウン・スウィート・ウエイ》。
この前半3曲が私は大好き。
家で、旅先で、通勤中にと、ところかまわず聴く。
そして、どんなシチュエーションにも似合う、というよりも、音の磁力が風景さえも変えてしまう。
壊れそうなほどにデリケートで美しいピアノをお望みの方には、是非お薦めしたい逸品だ。
人によってはビル・エヴァンスよりもハマってしまうピアニストかもしれない。
記:2009/10/18
album data
CIRCLE WALTZ (Riverside)
- Don Friedman
1.Circle Waltz
2.Sea's Breeze
3.I Hear A Rhapsody
4.In Your Own Sweet Way
5.Loves Parting
6.So in Love
7.Modes Pivoting
Don Friedman (p)
Chuck Israels (b)
Pete La Roca (ds)
1962/05/14