コーリション/エルヴィン・ジョーンズ
2021/02/17
解説動画
プリミティヴ・パワー
コルトレーンが亡くなった3年目の命日に録音されたエルヴィン・ジョーンズのリーダー作『コーリション』は、アート・ブレイキーがブルーノートで試みた『ジ・アフリカ・ブラス』や『ホリデイ・フォー・スキンズ』、あるいは『オージー・イン・リズム』のコンパクト・バージョンのようだ。
誤解を恐れずに短い言葉で言い切ってしまえば、パワフルかつ先祖返り。
複雑なハーモニーは不要とばかりにコード楽器のピアノを排し、旋律や演奏の方向性はあたかも部族の祭りかのごとく素朴で力強い。
ブレイキーが複数のパーカッション奏者で築き上げた壮大な「リズム帝国」を、エルヴィン1人の手足で築き上げんといわんばかりの、力強いポリリズムが展開される。
真実
冒頭の《Shinjitsu》は、日本語の「真実」からネーミングされている。
祝祭的なムードからやがてトランス状態にどんどん「入って」いくフランク・フォスターのバスクラリネットが生々しく、エリック・ドルフィーが吹くバス・クラリネットとは異なる魅力を放っている。
アドリブの中盤以降からは、高音域を多用したフレーズ、あるいは単音を連発するが、バス・クラリネットは、「ぬるぬるとした低音」のみならず、様々な音域を出せる非常に魅力的な楽器なのだということを教えてくれる。
続いて登場する、ジョージ・コールマンのテナーサックスのソロは、フランク・フォスターがバスクラで築き、盛り上げたムードをそのまま受け継ぎ、うねうねと高揚感あふれる「磁場」を形成する。
続くエルヴィンのドラムソロは、まるで地響き。
フロアタムのドドン!は、さながら雷鳴の如く。
力強さと人間が本来原始から携えていたであろうプリミティヴなパワーが解き放たれたかのような演奏だ。
もう一つおすすめナンバーを挙げるとすれば、《5/4 シング》。
ドラマーがリーダーのアルバムらしく、変拍子に挑んでいるが、冒頭のリフはさながら『ミッション・インポッシブル』のテーマのようだ。
キャンディド・カメロのパーカッションも大活躍。
これが録音された1970年は、フリージャズやモードを下敷きにしてより先鋭化されたジャズや、既にマイルスは『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチェズ・ブリュー』で電化路線を推し進めていた時期。
「フリー」「モード」「エレクトリック」などという、分かりやすく短い言葉で括れるトピックスを持たぬこのアルバムは、それほど注目されなかったようだが、時代を彩っていたキーワードと、それに伴う先入観が風化された今こそ、純粋に音そのものと対峙できるのではないだろうか。
そういうわけで、再評価されてしかるべきアルバムの1枚だと思う。
記:2019/07/24
album data
COALITION (Blue Note)
- Elvin Jones
1.Shinjitu
2.Yesterdays
3.5/4 Thing
4.Ural Stradania
5.Simone
Elvin Jones (drums)
George Coleman (tenor saxophone)
Frank Foster (tenor saxophone, bass clarinet)
Wilbur Little (bass)
Candido Camero (conga, tambourine)
1970/07/17