ジャズメン死亡診断書/小川隆夫

   

小川氏だけに許された切り口

23人のジャズメンの死因と音楽に迫った異色の一冊、『ジャズメンの死亡診断書』。

ジャズメン死亡診断書ジャズメン死亡診断書

このような切り口の本は、もう医師である小川隆夫氏でなければ絶対に書けない内容でしょう。

それにくわえて、実際に本書で取り上げられている多くのジャズマンに会い、時にはインタビューをしたり親交もあったジャズジャーナリストでもある小川氏にしか許されない特権だといっても過言ではありません。

クリフォード・ブラウン、スコット・ラファロ⇒交通事故死
リー・モーガン⇒内縁の妻に射殺される
チェット・ベイカー⇒ホテルの2Fから転落死

このように、有名どころのジャズマンの死因は、ジャズをちょっとかじっていれば半ば自動的に知識として身についていくこと。

この本で取り上げられているジャズマンの死因も、おそらく多くのジャズファンは既にご存知のことでしょう。

しかし、そこは、ジャズジャーナリストであり、医師でもある小川さんのこと、彼らジャズマン「死」を、もう少し詳しく突っ込んで解説し、それだけにとどまらず、彼らの生き様と音楽性をバランスよく解説しています。

ですので、ジャズをさらに詳しく聴きたい人に向けての音楽ガイドとしての役割を果たしており、偏ったバランスの本にならず、読み物としてきちんと読める内容に仕上がっているところが素晴らしい(編集の力も大きいと思うけど)。

ジャズの入門書として入門者が最初の1冊として読むにはどうかな?とは思いますが、3冊目ぐらいに読んでも十分に楽しめ、かつジャズへの興味が急速に拡大するんじゃないかと思える内容です。

拙著、『ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門』と併せてどうぞ(笑)。

ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門ビジネスマンのための(こっそり)ジャズ入門

ジャズという「音楽」だけではなく、ジャズマンという「人間」に興味や愛着を持ったほうが、さらにジャズを深く楽しめるんじゃないかと思うのです。

特に、難解そうに見えるジャズでも、「人」から興味を持ってしまえば、「それじゃ聴いてみようかな」という気分になりやすいんじゃないかと。

エリック・ドルフィー

個人的には、エリック・ドルフィーが好きだということもあり、ドルフィーについて書かれた章が興味深かったですね。

特にドルフィーのおでこの「こぶ」についての考察、じつは私も晩年のドルフィーの映像を見て、コブがあったり無かったりを観て、不思議に思っていたことがあるんですよ。

詳しくは本書をお読みください!ということなんですが、やっぱりドルフィーは不思議だ~。

あの名盤『アット・ザ・ファイヴ・スポット』の時のコンボ(ブッカー・リトル、マル・ウォルドロン、リチャード・デイヴィス、エド・ブラックウェル)は、あんなに素晴らしい演奏を繰り広げながらも、経済的要因により解散せざるをえなかったということは知っていたけれども、ドルフィーの生活は、私の想像以上に困窮していたということは、正直この本を読むまでは知らなかったです。

At the Five Spot Complete EditionAt the Five Spot Complete Edition

あんなに先鋭的かつアグレッシブで素晴らしい表現力を持ったドルフィーですら、食っていくのは大変だった。

「ジャズに生きる」ことの大変さをこのエピソードからも垣間見れて、ちょっと切ない気分になってしまいましたね。

記:2017/02/13

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