イン・モントルー/ディー・ディー・ブリッジウォーター

   

とにかく素晴らしいライブ盤なのだ

誤解を恐れずにいうと、これは、90年版『エラ・イン・ベルリン』かもしれない。

エラ・フィッツジェラルドの傑作アルバムに比肩する、楽しさ、スリリングさ、音楽的高度さが封じ込められている。

さすが、ミュージカルをやっていただけのことはあり、素晴らしいエンターテイメント性と、高度な音楽性が無理なく融合しているところが凄い。

それもそのはず、彼女のキャリアを見れば、なるほどな、とうなずけるはず。

なにしろ、共演者だけみても、サド・メル楽団に、ディジー・ガレスピー、マックス・ローチ、ソニー・ロリンズ、デクスター・ゴードン、ローランド・カークですからね。

その上、元旦那のセシル・ブリッジウォーターはトランペッターだし。

さらに、彼女のお父さん(デニス・アイリーン・ギャレット)もトランペッター。

生まれも育ちも「ジャズです」「ブラックミュージックです」と言わんばかりの骨の髄まで、黒人ミュージックのエッセンスが凝縮されたシンガーといっても過言ではない。

一時期は、ジャズよりミュージカルのほうを主軸に据え、80年代半ばからはパリを拠点にミュージカル女優として活動していた彼女だが(ミュージカル『レディ・デイ』でビリー・ホリデイの役を演じている)、90年代からは、そう、まさに、このライヴが行われたモントルー・ジャズ・フェルティヴァルの時期を契機に、彼女は再び音楽のフィールドに戻ってきている。

とにかく、音楽的な反射神経というのかな? 一瞬一瞬の流れをとらえ、最大限の表現をする感性と反応速度は抜群で、ダイナミックレンジも広い。

冒頭のスキャットからはじまる《オール・オブ・ミー》から、ラストの《ホレス・シルヴァー・メドレー》まで、一瞬の息をつく暇すら無しというくらい、充実した歌唱とアンサンブルなのだ。

楽しめる。
エキサイティング!
ブラボー!

記:2019/07/18

album data

IN MONTREUX (Polydor)
- Dee Dee Bridgewater

1.All Of Me
2.How Insensitive
3.Just Friends
4.A Child Is Born
5.Strange Fruit
6.Night In Tunisia
7.Horace Silver Medley

Dee Dee Bridgewater (vocals)
Bert Van Den Brink (piano)
Hein Van de Geyn (bass)
André Ceccarelli (drums)

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