グリーン・ドルフィン・ストリート/ビル・エヴァンス
堅実4ビート
ビル・エヴァンスといえば、スコット・ラファロやエディ・ゴメスのような“動くベース・絡むベース”と、インタープレイを繰り広げるピアニストというイメージが強いが、このアルバムのように、堅実に4ビートを刻むリズムセクションをバックにしたピアノを弾くエヴァンスも、私は好きだ。
バックのビートが安定しているぶん、より一層エヴァンスのピアノに耳を集中させることが出来る。
そして、バックが堅実に「4つ」を刻めば刻むほど、彼独特の、ちょっと屈折したノリと、独特な和声感覚が、より一層明確に浮き彫りになってくるので興味深い。
《ワルツ・フォー・デビー》や《マイ・ロマンス》などからは伺い知れない、エヴァンスというピアニストのハードで硬派な一面を味わうことが出来る。
マイルスのリズムセクション
彼のバックを支えるリズム陣は、当時のマイルス・グループのリズム隊。
ポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズという黄金のコンビだ。
なんといっても白眉は、冒頭の《あなたと夜と音楽と》だろう。
というよりも、私は、次の曲を聴かずに、この曲ばかりをリピートして聴くこともあるほど、エヴァンスの《あなたと夜と音楽と》が好きだ。
イントロのフィリー・ジョーが叩き出すハイハットの緊張感、つづいて、神妙に、しかし力強くテーマを弾き始めるエヴァンス。
この瞬間が無ければ、この演奏の魅力は半減してしまうのではないかと思うほど、イントロの引き締まった緊張感は素晴らしいものだ。
私の場合は、フィリー・ジョーのイントロのハットの数音を聴いただけで、このアルバムに貫かれている、ストイックで緊張感漂う世界に、ドップリと漬かってしまうほどだ。
また、この演奏におけるポール・チェンバースのベースソロも私は好きだ。
この演奏のピリッと引き締まった雰囲気をうまく受け継いだ神妙なベースワークが素晴らしいし、チェンバースらしいベースソロの入り方だなと思う。
この曲に限らず、ポール・チェンバースのベース・ソロって、ソロに入るタイミングが絶妙だと思いませんか?
一呼吸タメをを置いてから、もそっ!と低音が時間の空白から突如持ち上がるような、チェンバースのソロの導入部。
この最初の一音が立ち上がる瞬間までの微妙な空白が私はすごく好きだ。
このアルバムの演奏は、1959年の吹き込みだが、どういうわけか、リヴァーサイドが倒産した1969年まで日の目を見ることの無かった音源だ。
つまり、10年間オクラ入りになっていたということになる。
こんなに素晴らしい演奏が、どうして日の目を見なかったのだろう?
一枚のアルバムとして成立させるには、曲数が少なかったから?
というのも、この録音の3年後に吹き込まれた、ズート・シムズやジム・ホール、ロン・カーターという違う顔ぶれの曲《ルーズ・ブルース》が追加収録されている盤もあるからだ(ちなみに、私の所有しているCDには収録されていない)。
冷たい夜の空気を吸い込んだときのような、ヒンヤリとした心地よさと、硬派でザックリとした感触、そしてピリッと緊張感の漂うこのアルバムは、間違いなく、エヴァンス屈指の名盤だと思う。
記:2002/05/31
album data
GREEN DOLPHIN STREET (Riverside)
- Bill Evans
1.You And Night And Music
2.How Am I To Know?
3.Woody'n You (take 1)
4.Woody'n You (take 2)
5.My Heart Stood Still
6.Green Dolphin Street
Bill Evans (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
1959/01/19
※ズート・シムズ参加の《ルーズ・ブルース》が収録されているCDも出ていますが、私が所有しているCD(日本発売元:ビクター音楽産業株式会社)には、収録されていないため、曲データ表記は、手許のCDに基づきました。