Gメン/ソニー・ロリンズ
音源よりも映像が面白いジャズ
CDやレコードなどの音源を聴くよりも、実際にライブで観たり、ライヴの映像を観たほうが面白いジャズもある。
たとえば、チック・コリアのエレクトリック・バンドや、最近だとロバート・グラスパーなどは、凝ったレコーディング音源を聴くよりは、ライブ映像を観たほうが数倍面白いと感じている。
同様にソニー・ロリンズの場合も、「ある時期」以降になると、CDを聴くよりも、演奏している映像(動画)を観たほうが、興奮度が数倍にアップすることが多い。
マイルストーン以降
「ある時期」とは、おおよそ1970年代の前半から中盤にかけて。
インパルス・レーベルから、マイルストーン・レーベルに移籍した後のロリンズは、良い意味でポップかつキャッチ―で聴きやすくなったものの、耳だけで彼とバックのサイドメンの演奏を聴くと、少々単調に感じてしまうのだ。
この頃から、ベースはエレクトリックベースにはボブ・クランショウを「万年ベーシスト」の座に据え、甥のトロンボーン奏者であるクリフトン・アンダーソンを参加させる頻度が増えてきている。
もちろん、クランショウもアンダーソンも手堅い名手ではあるのだが、閃きに満ちたハッとするプレイをすることは少なく、どちらかというとロリンズ社長を盛り立てる、あくまで一社員の座に甘んじているようにしか見えない。
したがって、どうしてもマンネリに感じてしまうのだ。
音だけを聴いていると。
しかし、映像を見ると、一本調子な演奏でも、テナーを軽々と上下左右に揺らしながら力強く吹きまくるロリンズの雄姿に思わず食い入るように見入ってしまう自分がいる。
パワフル、豪快
特に1986年の《Gメン》の演奏は迫力だ。
およそ15分、ロリンズ大将は、豪快にテナーサックスを吹きまくる。
その雄姿をとらえたのが『Gメン』のジャケ写だが、この時のライヴ映像を見ると、本当に写真のようにテナーサックスを上に持ち上げながら勢いあるブロウを繰り返している。
パワフル、豪快。
このような言葉を臆面もなく使えてしまうほど、とにかく圧巻のライブ演奏なのだ。
音だけだと、やや単調
しかし、これを音源のみで聴くと、やはり単調に感じる。
その差はなんだろう。
ひとつは、「♪ラーソミレミソラ」というシンプルで覚えやすいモチーフをアドリブのいたるところに挿入していることがあるかもしれない。
もちろんリアルタイムでライヴに接している観衆からしてみれば、耳慣れてきたフレーズを執拗に繰り返されれば親しみやすさも倍加することだろう。
しかし、耳だけで音を追いかけていると「またか」と感じてしまうことも事実。
あたかも、セロニアス・モンク・カルテットで、テナーサックス奏者のチャーリー・ラウズが、どの曲でもアドリブのどこかには必ずといって良いほど同じフレーズを吹くたびに「またか」と溜息をついてしまうように。
歌手とバックバンドの関係
しかし、これはおそらくロリンズが達したひとつの自分なりの表現方法なのだろう。
この《Gメン》以外にも、ロリンズは十八番の《ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル》などの演奏でも、いたるところに耳に馴染みのあるテーマの旋律を繰り返している。
つまり、70年代以降のロリンズは、ジャズの新しい方法論やアプローチなどを取り入れるのではなく、とにかく「オレのサックス一本」で魅せることに徹するようになったのだ。
レコーディングをしてアルバムも作るが、たとえばマイルスのように、新しい作品を出すごとに、新たなコンセプトやアプローチを提示するのではなく、とにかく自分のサックスが良い演奏をすれば良いという考え方になったのだろう。
そして、自分が良い演奏をするために、バックのサイドメンには充実した演奏を求める。つまり、バンドとしてグループのサウンドを体現するという考え方ではなく、歌手とバックバンドの関係を追求する考え方だ。
独演会
そして、もうひとつ。
音源よりも映像を観たほうが面白い理由は、厳しい言い方だが、結局のところ、映像の補完がないと音楽そのものだけでは物足りない内容だからなのだろう。
だから、私の場合、《Gメン》を聴きたくなった場合はCDで聴くよりも、上に貼り付けたYouTubeの動画を観ることのほうが多い。
トロンボーンにもピアノにもソロを取らせず、ひたすら豪快に吹きまくるマッチョなパワフル・ロリンズの姿は、圧巻だが、ほとんど出番がなく立っているだけのクリフトン・アンダーソンの姿が微笑ましい。
本当に、この演奏でのロリンズはワンマン社長。
社長の独演会に忠実な社員たちは、精一杯盛り上げているという構図を楽しめる。
「♪ラーソミレミソラ」という簡単なモチーフを、15分近く力業で押し切るロリンズのパワーもおそるべしだが、やはりその力業は映像で見たほうが迫力が倍加する。
CDだけだと、やっぱり単調さをどこかに感じてしまうんだよね。
コルトレーンの長尺演奏
同じ15分以上のテナーサックスの独り舞台であれば、私の場合はコルトレーンの『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』の《チェイシン・ザ・トレーン》のほうに「ジャズ」を感じる。
参考記事:アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード 1961-11-02/ジョン・コルトレーン
この曲を演奏していた時のコルトレーンは、ライブハウスの客席を歩き回りながらテナーサックスを吹いていたそうで、もし映像が残っているのであれば、歩き回るコルトレーンの姿も見てみたいとも思うが、そのようなパフォーマンスがあってもなくても、この演奏でのコルトレーンは新しい閃きに満ち満ちているので、映像がなくても、あっという間の15分(正確には16分12秒)に感じてしまうのだ。
コルトレーンよりもロリンズ好きな私ではあるけれど、やはりロリンズはベースはアコースティック、レーベルはRCAビクターより前の時代が最高だと感じている。
もちろん『橋』以降のロリンズも聴くし、嫌いじゃないのだけれども、閃きに満ちたブルーノートやプレスティッジ時代の演奏と無意識に比較してしまうんだよね。
贅沢かつワガママだとは重々承知しつつも、やはりロリンズは構成にメリハリがある長すぎない演奏のほうが良い。
CD購入は映像を観た後に検討すれば良い
したがって、『Gメン』のCDは、万人にはおすすめしない。
最初にライヴ映像を観た上で、それでもなおかつ「音として持っていたい」という人のみCDを購入すれば良いのではないかと思う。
それにしても、英語表記だと「ジーマン」と読むはずなのに、なぜに邦題は「ジー“メン”」なのだろう?
記:2017/11/21
album data
G-MAN (Milestone)
- Sonny Rollins
1.G-Man
2.Kim
3.Don't Stop the Carnival
4.Tenor Madness
Sonny Rollins (ts)
Clifton Anderson (tb)
Mark Soskin (p)
Bob Cranshaw (el-b)
Marvin "Smitty" Smith (ds)
1986/08/16