《アイ・ソート・アバウト・ユー》のハンコック
名盤のラストにひっそりと収録されたナンバー
かのタモリ氏も絶賛するマイルス・デイヴィスの名盤『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』。
このアルバムラストにひっそりと収録されている《アイ・ソート・アバウト・ユー》、いつもきちんと聴いていますか?
私は、きちんと聴いていませんでした。
反省。
このアルバムの目玉曲《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》のみに耳を奪われることなく、ラストに収録されたこの演奏にまでしっかりと耳を通し、さらにこの演奏の虜になっている人は、けっこう「通」というか、センスの良い人なんじゃないかと最近は思っている。
ジョージ・コールマンのテナーソロ
まず、メランコリックなマイルスの重たいラッパが素晴らしい。
このアルバムのタイトルナンバーである《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》とは異なる憂いがマイルスのトランペットからは放たれている。
そして、この「気分」を上手に受け継ぎ、少な目な音でフレーズよりもムード構築を優先させたジョージ・コールマンのテナーサックスソロも素晴らしい。
スムースで流れるようで、それでいて泣き所、落としどころもキッチリと抑えているのだ。
しっかりと耳で追いかけていかないと、あまりにもスムースにテナーサックスのアドリブが流れていくので、耳に引っかかりが残らないかもしれない。
だから、注意して耳を済ませてみよう。
不必要な音は一切吹かずに、物語を構築しているジョージ・コールマンの手腕に舌を巻くこと請け合い。
もし、これがコルトレーンだったら、そういうわけにはいかなかったことだろう。
ハンコックのピアノソロ
そして、その後に続くハンコックのピアノソロ!
彼が弾きだすピアノのなんと陰影豊かなことか。
粒立ち素晴らしいピアノが中空を舞い、マイルスが設定した呪縛から軽やかになりつつも、ダークでメランコリックな微成分もきっちりと残している。
このハンコックのソロを聴きたくてピアノのアドリブパートが始まるまでの約6分50秒を楽しみに待っている自分がいる。
なにしろ、ハンコックのソロが始まる数秒前からリズムセクションが一気に華やぐのだ。
この空気チェンジの巧みさといったら。
この瞬間がたまらなく好きな私は、この「ふわっ!」と空気が軽くなる瞬間を待つ7分弱の時間が好きなのだ。
この演奏が好きな人は、きっとその気分、分かってもらえることと思う。
再鑑賞のすゝめ
このアルバムは持っている、昔よく聴いた、耳タコだ、もう内容も隅から隅まで頭の中に入っているから、今さら聴き返してもね~、という人も多いと思うんが、《アイ・ソート・アバウト・ユー》のハンコックのピアノのところだけでも、いや、演奏が始まって、ハンコックのソロが始まり、テーマに戻るまでのところだけでも(結局、全部になってしまうか)耳を澄まして聴いてみよう。
いかに、この当時、マイルスが擁していたクインテットのメンバーたちは楽器演奏力のみならず、レスポンス能力の高さがあったのかが分かるはず。
それとともに、名盤再鑑賞の愉しみも増す可能性大。
記:2017/04/08
album data
MY FUNNY VALENTINE (Columbia)
- Miles Davis
1.Introduction By Mort Fega
2.My Funny Valentine
3.All Of You
4.Go-Go (Theme And Re-Introduction)
5.Stella By Starlight
6.All Blues
7.I Thought About You
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams(ds)
1964/02/12