微速前進ホレス・シルヴァー
素晴らしいピアニストであり、素晴らしい作編曲家でもあるホレス・シルヴァー。
彼が作り出すメロディ、アレンジは、すぐに彼だと分かる個性やテイストを持っています。
それだけ作風がしっかりと定着しているということもあるだろうし、常に聴き手の存在を忘れず、聴き手が自分に求めるテイストを知った上で、期待に背かぬようにする心遣いがシルヴァーの根底に流れているのでしょう
だからこそ分かりやすい。
しかし、だからといって彼は同じ作風に甘んじているわけでは決してない。
実験精神を失わずに、少しずつ、バージョンアップを繰り返している編曲者でもあるのです。
ホレスver.8
ホレスver.8.1
ホレスver.8.1.2
ホレスver.8.2…
といったように、そのバージョンアップっぷりも微妙だったり痒かったりするので、注意して追いかけないと分かりづらいかもしれないけれど、彼は確実に進化を繰り返しているし、その前向きな精神をもうちょい評価してあげなくちゃ、と常々思っています。
だって、ホレスといえば、猫も杓子も「ファンキー」じゃぁねぇ……。
もちろん「ファンキー」には違いないんだけれども、人って、なにか一つのキーワードや括り言葉を見つけると安心しちゃって、それ以上に深く物事を見ようとしない傾向があるじゃないですか?
たとえば、このアルバム。
『ファーザー・エクスプロレーションズ』を聴いてみよう。
「いつものホレス」、かもしれない。
そう、他のブルーノートの諸作と大きな変化はないのかもしれないが、フロントの管のアレンジといい、ピアノのバッキングやアドリブの風合いも、どこか新しい風通しのよさを感じませんか?
そこに気づけば、もうあなたはこのアルバムに病みつき。
抑制の効いた知的に美しいファーマーのトランペットは相変わらず美しいし、ちょっとくすんだクリフ・ジョーダンのテナーもファーマーの音色とベストなマッチング。
彼らフロント二人は、忠実にホレスの描こうとした音世界の構築に貢献している。
タイトルも、「未来への探求」ってことからも、並々ならぬ意気込みを感じますね。
大げさに何かドデカいことを打ち立てたり、奇を衒ったことにチャレンジしようとはせず、堅実に一歩ずつ未来に向けて歩みを進めてゆくシルヴァーの姿勢は、好感が持てますね。
記:2009/08/18
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