マイルス、ふたつの《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》
ブルーノートorプレスティッジ
50年代中盤のマイルス・デイヴィスといえば、《It Never Entered My Mind》だが、あ、すいません、かなり強引ですが、今日の私の気持ちはそうなんで、そういうことにしといて欲しいんだけど、
どうですか?
皆さん、どちらの《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》がお好きですか?
ブルーノートのバージョンと、2年後のプレスティッジのバージョン。
私は、ブルーノートのほうが好きだなぁ。
ブルーノートのピアノはホレス・シルヴァー。
プレスティッジのほうは、レッド・ガーランド。
二人の伴奏は対照的で、両方ともイントロやテーマの伴奏は、アルペジオ(分散和音)なのだが、
シルヴァーは、上昇パターンのアルペジオ。
ガーランドは、いったん下降して上昇パターンのアルペジオ。
どちらも美しいのだが、私はホレス・シルヴァーのピアノのほうが好きだ。
シルヴァーのピアノは、ほんのり暖かい。
ガーランドのピアノは、ひんやり心地よい。
どちらも美しいのだが、もうこれは好みの問題なんですけどね。
オープン or ミュート
で、肝心のマイルスのトランペットだが、ブルーノートでの演奏と、プレスティッジの演奏にも大きな違いがある。
ブルーノートはオープンミュート。
プレスティッジはミューテッド・トランペット。
これも、ホレスとレッドの違いのように、ブルーノートには素朴な暖かさがあり、プレスティッジのミュートトランペットには、クールでヒンヤとした心地よさがある。
どちらも良いのだが、私は、ブルーノートのバージョンのほうが好きかな。
このたどたどしさがいい。
たどだとしいけれども、愛情とぬくもりが感じられる。
プレスティッジのミュートのプレイは、もう、にくらたらしいほど完璧。
たった2年で、こんなに表現のスケールが大きくなるのかと思うほど、完璧。
泣かせるところ、しんみりさせるところ、盛り上げるところ、じらすところ。
もう、語り口の起伏やメリハリが、リスナーの心理を読みきっているのかと思うほどの構成力を見せている。
技量、それにともなう表現力という点からみれば、完全にプレスティッジのマイルスのプレイのほうが上だろう。
では、どちらが心を打つかというと、これは個人差も当然あるのだろうが、私の場合は、ブルーノートのほうを取る。
寡黙で純朴な青少年が、ひたむきに未来を語り、訥々と語っている趣きがある。
たとえば、「口説き」でいうと、ブルーノートのほうは、ボソボソと不器用ながらも、そんな不器用さから滲みでるひたむきさが女心を射止める感じ(笑)。
プレスティッジのほうは、遊びに長けたプレイボーイが女心のツボを完全にわきまえたうえで、語り口調に緩急をつけながらやさしく女性をエスコートをする感じ(笑)。
もちろん後者のほうが安心感があるし、そのままマイルスの語り口に誘導されれば、自然に気持ちよく酔える内容にはなっている。
いっぽう、ブルーノートのほうは少々危なっかしく、ションボリとした切なさもあり、そこがいいんだなぁ。
それにしても、たった2年という短い期間で、こんなに雄弁な表現力を身につけてしまったマイルスは、相当に女性修行を重ねたのでしょうか?(笑)
記:2013/10/04
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