マーヴィン・ゲイの《ホワッツ・ゴイング・オン》を支えたベースの弦は?

      2022/08/13

ハーフラウンド

ベースの弦は、大きくラウンド弦とフラット弦と大別されますが、じつは、弦の種類はこの2種類だけではありません。

動物の腸から作るガット弦。

ジャズだと、チェンバースやミンガスなど、昔のウッドベース奏者が使っていた弦ですね。

芯線のみのプレーン弦(いわゆるピアノ線)。
これは、三味線や、胡弓の最高音弦のみに使われます。

4本の線を撚り合わせて作る撚弦。
これも、三味線などの和楽器に使われています。

エレクトリックベース用には、正六角形の芯線と、その形に密着するように巻き付けられたヘックスワウンド弦、エリクサー・ストリングス開発の新しいタイプのナノウェブ弦(弦の表面を樹脂でコーティング加工しているので、錆びにくい)、そして、ジェームス・ジェマーソンが愛用していたラ・ベラの弦は、ハーフラウンドです。

ジェームス・ジェマーソンといえば、モータウンの音楽を支えたグルーヴマスターにして、エレクトリックベースの巨匠。
私がもっとも敬愛するエレクトリック・ベース奏者でもあります。

▼もっとも代表的な1枚

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ジェマーソンは本当に大好きなベーシストで、ベースマガジンの特集や、ベースマガジン発行の別冊などは穴が開くほど読みまくったものです。

▼ジェマーソン・ファン必携!必読!

で、上記著書によると、ジェマーソンは、10年以上弦を張りかえなかったそうですが、その張りかえなかった弦が、ラ・ベラのハーフワウンドなのです。

ラ・ベラといえば、ビートルズ時代のポール・マッカートニーがヘフナーのヴァイオリン・ベースに貼っていた弦のメーカーでも有名ですね。

LaBella 760FHBB for Hofner ”Beatle Bass” 【HxIv29_04】 【HxIv32_04】

それはともかく、ハーフワウンドとは、どういう弦なのかというと、簡単に言ってしまえば、ラウンド弦とフラット弦を足して2で割ったような弦です。

実際、製法も、ラウンド・ワウンド弦の表面を削って滑らかにしているので、音色も触感も、ラウンドとフラットの中間だと言ってもよいでしょう。

少しでもジェマーソンのようになりたかった私は、真似をして、ラ・ベラの弦を張り、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』のベースラインを弾いて遊んだりしていた時期もあるのですが、うーむ、個人的にはあまり好みではありませんでしたね。

弾いた感じの触感が、フラット弦よりも軽く、テンションもフラット弦ほどの手ごたえがない。かといってラウンドのようなアタックやパンチがあるわけでもなし……と、個人的にはなんとなく中途半端な“音色”というよりは、“弾いた手ごたえ”だったのでした。

もちろん慣れてしまえば、気にならなくなるのでしょうが、しばらく張り続けると、かなりテンションはデロデロに緩くなってきてしまいます。

ジェマーソンが張っていた状態って、恐らくはその状態よりもさらにデロデロ~だったんじゃないかと思うと(笑)、どんな弾き心地だったのだろう?と思います。

オーディオと違って、楽器のパーツの追求で面白いところは、単に“好みの音色”だけではなく、“弾いた時の手ごたえ&感触”という、ダイレクトに身体に反映される要素をも加味して、あれこれ「うーむ、違うなぁ」と悩むところにあります(笑)。

人が聴いたら“良い音”でも、演奏中の感触が気持ち悪かったり、いまひとつシックリこない場合は、演奏者個人にとっては“良い音”ではないし、少なくとも“自分の音”ではない。

逆に、弾いていたときの感触がシックリ来たときの場合の音色が、結局は“自分の音”になってゆくのだと思います。

私の場合、ジャコもマーカスも、CDを聴いているぶんには、ブライトでセクシーで良い音色だと感じます。

2人とも、好きなベーシストなのです。

だけど、彼らと同じようなセッティングで、いざ自分が弾くと、どうも弾いているときの手ごたえがシックリとこないんですよね。

客観的に聴けば、“似たような音色”にもかかわらず、身体がどうしても、“なんか違う”“こういう手ごたえではない”と内側から訴えかけてくるんですよ。

で、私がもっとも弾いている時に、身体がしっくりと納得するタイプの音って、やっぱりジェマーソンタイプのモコモコした音。

フラット弦のタフな手ごたえの弦を力を込めて弾き、トレブリーにならずに、モコッと甘く太い感じの音色。

それとは対照的な音色も、聴いているぶんにはもちろん好きなのですが、いざ自分が弾くとなると、ギザギザした音色よりも、モコモコした音色のほうが安心するみたい。

オーディオの体感

これって、ちょっとヘンな喩えになっちゃうかもしれませんが(と、あらかじめゴメンナサイしておきます)、耳と体の微妙な好みの乖離って、セックスの相性にも近いものがあると思ふ(笑)。

たとえばですが、たとえばですよ(笑)、性格も、ルックスも好みじゃない。会話もあまり噛み合わない。つまり、どう考えても自分の好みのタイプではないにもかかわらず、なぜか妙に身体の相性だけは良かったりする人と付き合ったりしたことって、一度や二度は経験ありませんか?(笑)

このへんが、同じ“音の追求”でも、オーディオと楽器の違いなのかもしれません。

だって、オーディオは、あくまで目的は“鑑賞”ですから、“最中”の間は、身体は動かしませんよね(笑)? でも、楽器演奏の場合は“最中”の間は身体を動かす。

私の場合でいえば、理想のタイプはジャコ嬢、マーカス嬢だったにもかかわらず(笑)、いざ体験してみると身体の相性が違った。

音を出した瞬間、「なんか違うよね」と、アタマは「好み」なのに、カラダは「好みじゃなかった」(笑)。

で、必ずしも「理想のタイプ」とは言い難いんだけど、幼馴染みのジェマーソンちゃんと気付けばゴール・インしてました、みたいな感じかな~。

もしかしたら、自分にしか分からない喩えでスイマセン(笑)。

でも、楽器やっている人は、少なからず、自分の「頭の中の理想」と、自分の「身体の反応」のギャップは感じているハズ。

頭の満足と、身体の満足は一致しないこともある。いや、しないほうが多い?

だからこそ、己の理想と、身体の満足が一致した瞬間の悦びはひとしおなのです。

耳にインプットされる情報の内容にこだわるのがオーディオの世界だとすると、こちらがアウトプットする際のフィジカルな反応やレスポンスまでをも加味した上で、あれこれとセッティング、パーツ、周辺機器に気を遣うのが楽器の世界。

ま、オーディオにしても楽器にしても、納得のいくラインにはなかなか落ち着かず、あーだこーだ頭を悩ませるのが楽しく、結局、お金がかかってしまうという面では共通かもしれませんが(笑)。

オーディオマニアも、音にあれこれと悩み、思いを巡らせているんだということは、寺島さんが書いた本のタイトルだけでもよ~く分かりますね(笑)。

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“悶絶桃源郷”ってソソル五文字熟語です(笑)。
“快楽”ではなく「“悶絶”ジャズ通信」でも良かったかもしれない(笑)。

記:2010/01/31

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