風街ろまん/はっぴいえんど
2019/11/08
回りくどく感じる歌詞
これが、当時の日本のポップスの価値観だったのだろうけれども(特にフォークソングとか?)、だけども、歌詞の内容の多くが、なんというか、回りくどいんだよね。
でも、いい。
とくに、《風をあつめて》がいいんだよね。
サビのメロディも解放的で印象的だし。
時代を感じる間接話法
もっとも《風をあつめて》の歌詞に限ってのことじゃないんだけれども、はっぴいえんどの恋歌は、直接話法じゃない。
悪く言えば、回りくどい。
単刀直入に「おまえが好きだ」とは縁遠い世界ではある。
まず、情景描写とか近況報告から入る。
ボクは、どこそこに行って、なんとかな景色を見て、こう思ったんです~、みたいな感じにね。
で、行間から自分の気持ちをほのめかしたり、そんな詩人チックなボクをもっと好きになってよ、的なナルシズムもちょこっと入っちゃったりもするんだけれども、このテレ具合が(同じ男が言うのもヘンかもしれないが)カワイイと思う。
というか、時代を感じますね。
とくに、本題に入らない情景描写や、気持ちの込め具合に関しては、《風をあつめて》の歌詞が非常にうまいし、まあ好きです。
もちろん、サビの
♪かーぜーをーあつーめてぇ~
のところもいいよね。
一度耳にしたら忘れられない。
この曲があるだけでも、『風街ろまん』は万人にお勧めしたいアルバムだ。
高等遊民的なセンス
もっとも、《風をあつめて》は、つかみの良いキャッチ―なメロディの楽曲で、最初に聴いた時に印象に残る曲なのだろうけれども、何度も聴いていくうちに、じわじわと、はぴぃえんど独特の高等遊民的とでもいうか、気合いや努力・根性とは無縁な「ふうわりした世界」が、じんわり心に染みてくる。
たとえば、個人的には、音も歌詞もシュールな世界で、さらにファルセットがそれに拍車をかけている《あしたてんきになあれ》なんかイイね。
少し前に携わったCMのBGMにも使われてましたが、選曲した人のセンスをむちゃくちゃ買います。
じつは、「ハイカラ白痴」ではなくて、「肺から吐く血」なんじゃないかという《はいからはくち》も好きですね。
古き良き東京、そして横浜
このアルバムがリリースされた時、私はまだ物心がつくかつかないかの時だった。
当時の邦楽シーンは、日本語のロックに関しての賛否両論が喧々諤々と議論されていたそうだが、この『風街ろまん』というアルバムが、この論争に終止符を打ったエポックメイキングな作品とされており、歴史的意義も高い作品ということらしい。
しかし、このような当時のこの作品の意義だったり、新しさのようなものって、リアルタイムで時代を経験していないと、なかなか理解できないのではないかと思う。
日本語のロックなんて、今の世では当たり前すぎるほど当たり前になっているし、そのような耳で『風街ろまん』を聴くと、「え?ロックだったんすか?」と怪訝な気分になってしまう。
むしろ、私がなんとなく頭の中で描いているフォークソング的な世界に近いという気もする。
しかし、ロックだのフォークだのジャンルを意識することなく、ふうわりとした力の抜けた心地よい世界に身と心をまかせれば、心地よきことこの上なし。
後で知ったのだが、この作品は、
1964年東京オリンピック以降の開発・近代化で急激に失われゆく「古きよき日本・東京の姿」
を描いたものらしい。
つまり「風街」とは、イコール近代化が進みつつも長閑さもどこかに残っている東京のことなんですね。
私が物心つくかつかぬ頃の横浜・本牧の風景でかろうじて残っているのは、幼稚園に入るころにはすでになくなっていた路面電車の姿と、道路に埋め込まれた線路。
モノクローム、もしくはセピア色に色あせた風景だ。
東京ではなく横浜の繁華街ではあるが、私が『風街ろまん』を聴くたびに思い浮かべる「古き良き東京=風街」は、横浜の本牧、小港、本郷町、麦田のトンネルを抜けた元町、そして伊勢佐木町なのだ。
原風景のひとつといっても良い。
『風街ろまん』は、サウンドの肌触りが、私の記憶の奥底に眠る風景を再生するスイッチになってしまっているアルバムともいえる。
記:2009/05/14
album data
風街ろまん (URC)
- はっぴいえんど
1.抱きしめたい
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
2.空いろのくれよん
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
3.風をあつめて
作詞:松本隆 作曲:細野晴臣
4.暗闇坂むささび変化
作詞:松本隆 作曲:細野晴臣
5.はいからはくち
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
6.はいから・びゅーちふる
作詞・作曲:多羅尾伴内
7.夏なんです
作詞:松本隆 作曲:細野晴臣
8.花いちもんめ
作詞:松本隆 作曲:鈴木茂
9.あしたてんきになあれ
作詞:松本隆 作曲:細野晴臣
10.颱風
作詞・作曲:大瀧詠一
11.春らんまん
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一
12.愛餓を
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一