ケリーのようなピアノを弾きたい~『ブラックホーク』のマイルス・デイヴィス
2018/07/28
ケリーになりたい
もし神様から「そなたをジャズピアニストにしてあげよう」と言われ、「誰のようなピアノを弾きたいか?」と尋ねられたら、躊躇なく「ウイントン・ケリーのようなピアニストにしてください」と頼むんじゃないかと思う。
そう、もし私がケリーのような能力を得られれば、たとえば、マイルス・デイヴィスのライブ盤『ブラックホーク』のウイントン・ケリーようなピアノを弾きたい。
このライブ、音はそれほど良くないのだけれども、私はこのライブの演奏内容が大好きで、コンプリート盤を買い、折に触れて聴きたい曲を数曲抽出しては聴いている。
ボックスセットなのでさすがに一気聴きは辛いが、比較的長尺演奏の多い曲の中から吸う曲聴くと、気分よく腹八分目の気分になれるのだ。
とにかく、このマイルス・デイヴィスのコンボでピアノを弾くウイントン・ケリーは最高。
伴奏をつけるタイミング、センスも痺れるほど素晴らしいし、シングルトーンで「歌う」ピアノも最高だ。
ケリーのモード
特に私がいちばんよく聴くナンバーは、3枚目のディスクに収録されている《ソー・ホワット》で、この曲で聴けるケリーのソロは、ウイントン・ケリーの最高の演奏のひとつだと思っている。
もちろん、モード曲以外のナンバーの演奏のほうがケリーの守備範囲ではあるので、「本領発揮」というわけではないのだろうが、得意とする守備範囲を逸脱したところで、自らの能力をストレッチさせているかのようなケリーのピアノは、勢いとクールな熱さを湛えており、こちらの燻ぶった気持ちに鞭打ってくれる素晴らしさがある。
『カインド・オブ・ブルー』のビル・エヴァンスも、『フォア・アンド・モア』のハービー・ハンコックも最高だが、ハーモニーに必要以上に気を遣うことなく、ひたすらノリノリで潔く前進していくケリーが最高。
このスピード感と歌心、そしてスリリングな躍動感は、まさしく「今自分はモダンジャズを聴いているのだ」という気分にさせてくれる。
コブのドラミング
《ソー・ホワット》といえば、『カインド・オブ・ブルー』のオリジナル演奏を除けば、私はトニー・ウィリアムスがドラムを叩く『フォア・アンド・モア』のバージョンが最高だと考えている。
このトニーの素晴らしいという言葉を1億回並べてもまだまだ足りないほどのドラミングに耳が慣れてしまうと、どうしても、『ブラックホーク』におけるジミー・コブのドラミングは単調に聴こえてしまいがちだ。
しかしそれは、無意識に「変化」「アクセント」「ハプニング」を求めているからこそ感じることであって、ひたすら「力強いグルーヴ」というものを念頭に置いて聴きなおすと、ジミー・コブのドラミングは、なんとも肉汁したたるほどの強靭な「肉々しきお肉パワー」が宿っているのかと簡単せざるをえない。
たしかにトニーのドラミングに慣れた耳で聴けば単調に感じてしまうことは致し方のないことではあるが、両者はまったく違うタイプのドラマーだ。
力強く連打しまくるコブ発する肉厚なシンバル音は、もうそれはそれはエネルギッシュ。
このシンバル連打を浴びていても、やはり自分は今ジャズを聴いているのだなという想いにふけることが出来る。
ケリーの素晴らしいピアノと、コブの力強いドラミングが融合した《ソー・ホワット》は、マイルスが生涯何度も演奏したバージョンの中でも個人的には上位に食い込むほど。
《ソー・ホワット》が終わり、それに続く《ノー・ブルース》も良い。
いずれにしても、夜、それも午後22時以降に聴きたい演奏だ。
album data
Complete Black Hawk (Columbia)
- Miles Davis
Disc 1
1.Oleo
2.No Blues
3.Bye Bye (Theme)
4.If I Were a Bell
5.Fran-Dance
6.On Green Dolphin Street
7.The Theme
Disc 2
1.All of You
2.Neo
3.I Thought About You
4.Bye Bye Blackbird
5.Walkin'
6.Love, I've Found You
Disc 3
1.If I Were a Bell
2.So What
3.No Blues
4.On Green Dolphin Street
5.Walkin'
6.'Round Midnight
7.Well, You Needn't
8.The Theme
Disc 4
1.Autumn Leaves
2.Neo
3.Two Bass Hit
4.Bye Bye (Theme)
5.Love, I've Found You
6.I Thought About You
7.Some Day My Prince Will Come
8.Softly, as in a Morning Sunrise
Miles Davis (tp)
Hank Mobley (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
1961/04/21&22
記:2017/03/31