リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡/アンディ・ハミルトン
内容もボリュームも充実の一冊
これは、インタビューアーのアンディ・ハミルトンが、5年にわたってリー・コニッツにインタビューをした記録をまとめたものだ。
とにかく、ソニー・ロリンズやオーネット・コールマン、ウェイン・ショーターという大御所、さらには、ジョン・ゾーン、ガンサー・シュラー、ポール・ブレイ、デイヴ・リーブマン、グレッグ・オズビー、ビル・フリゼールなどコニッツと共演した人やコニッツの影響を(密かに)受けている様々なジャズマンのインタビューも掲載されていてなかなか読みごたえがある。
ボリュームとしてはかなりの分量だが、読んでいてまったく苦にならないどころか、ページをめくる手がどんどん加速していくのは、アンディ・ハミルトンの編集手腕、そして、それ以前に、我々ジャズファンの一般的な関心ごとを上手に引き出しているからなのだろう。
想像以上にメロディ重視の人だった
目からウロコな話はたくさんあるのだが、もっとも興味深かったことが、「チャーリー・パーカーは誰にも教える気などなかったのに、誰もがパーカーとまったく同じような演奏をするようになった。レニー・トリスターノはインプロヴィゼーションの方法を教えたが、弟子たちには誰も同じような演奏はしなかった」ということだろう。
え?そうか?
トリスターノ派の門弟って、ウォーン・マーシュ(ts)にしろ、ビリー・バウワー(g)にしろ、なんだか似たようなテイストに聴こえるんだけどな……と思ったものだが、まぁ、コニッツにしろ、ハミルトンにしろ、彼らからしてみれば、トリスターノ一門それぞれの楽器奏者の個性は「似ていない」と感じているのだから、仕方ない。
雰囲気は似ていても、細かく譜面に起こして比較してみれば、演奏内容はまったく違っているかもしれないし。
それよりも、コニッツにしろ、師匠だったトリスターノにしろ、こちらの想像以上にリズムよりもメロディを重視していたということが分かり興味深かった。
彼の演奏を聴けば、単純かもしれないモノゴトに対しても、深く掘り下げ、様々な角度から検証するタイプの人だと感じてはいたが、これを読むと、私の想像以上に、音の配列に関しては厳しいとさえいえるコダワリを持っていることを感じた。
もっとも、レニー・トリスターノが抱えていたドラムの問題(リズムの揺らぎ)に関しての話や、コニッツが求めるドラマーの話など興味深い話も登場するので、リズムに関しての関心もまったくないわけではないということはわかるが、それ以上に、メロディ、いや、「歌」の人なのだなという感を強くした。
コニッツから浮かび上がるジャズの歴史
いずれにしても、この本を読めば、より一層、アルトサックス奏者、リー・コニッツの音源を深く鑑賞できることになるだろうし、とりたてて彼に関心のない人でも、彼というフィルターを通して、まだ知らぬジャズの歴史の奥深さと豊穣さを垣間見ることが出来るはずだ。
記:2018/07/12