アート・ブレイキー・イズ・ジャズ/アート・ブレイキー

   

ウイントン・マルサリス登場

1980年、アート・ブレイキーのバンドで驚異的なプレイを繰り広げた18歳の若者がいた。

完璧な楽器コントロールの技術、巧みな節回し、クリフォード、マイルス、フレディ・ハバードまでのエッセンスを吸収した上に、それらの要素を巧みに統合、再編集したかのような構成能力。
さらに、説得力のある音の張り、ツヤ、完璧ともいえるリップコントロール。

そう、ウイントン・マルサリスのことですね(笑)。

「クリフォード・ブラウン以来の逸材」、「30年に1度現れるかどうかの新人」など、多くの賞賛が寄せられ、ジャーナリズム、ジャズファンはものすごい勢いで彼に注目した。

彼の登場が、当時のジャズシーンを一変させてしまったいっても過言ではない。
なにせ、当時は、フュージョン全盛の時代。
4ビートジャズだなんて、過去の遺物さ!って風潮だったからね。

しかし、彼の登場でモダン・ジャズは息を吹き返した。
多くのジャズマンがフュージョンから4ビートに戻ってきた。

また、彼に続けとばかりに、後続の新人が続々登場した。

20歳に満たない新人トランペッター1人の登場が、シーンには大きな変化をもたらしたといっても過言ではない。

温かみがない?

ウィントン・マルサリス、っていうと、昔からの頑固なジャズおじさんたちは、やれ「温かみがない」だの、「冷たい」だの、「よそよそしい」だのと仰いますが、まぁ、それも一理あることは分かるんだけどね。

たしかに最近はあまりに伝統を重んじ、ニューオリンズ一辺倒だし、ジャズを伝統芸能視し過ぎて、音楽そのものが面白くないっていうことも確か。

しかし、アート・ブレイキーの元で繰り広げられる熱演は、多分、彼らが抱いているウイントン像とはちょっと違うような気がする。

聴いてから言ってるんですか? と問い返したくなる。
ねぇ、神保町の某マスター?(笑)

ブレイキー親爺のもとで繰り広げているウイントンのトランペットよりも、神保町の某マスターが愛してやまない最近のヨーロッパジャズのピアノトリオのほうが、私からしてみると楽器コントロールに長けているだけの「温かみのない」音楽に感じちゃうんですが、どうなんでしょう?

たしかに、ジャズを演奏するには、それ相応の訓練が必要だ。簡単に演奏できる類の音楽ではない。

しかし、「ジャズの楽器修行」をする過程で生じやすいカンチガイがあるのだが(特にアマチュアの俄か楽器弾きに)ジャズは断じて「器楽音楽」ではないということ。

ピアノの鍵盤を押すことが目的になっちゃっている状態の音は少なくともジャズじゃないっす。ピアノの鍵盤を押すことを通して、どう自分を出すかでしょ?大事なことは。

オーディオマニア

ついでに言っちゃうと、ヨーロピアンジャズの愛好家には、オーディオマニアが多いような気がする。
彼らにとってのヨーロッパなピアノトリオは、自分の装置に理想的な鳴りを提供してくれる格好のソース(音源)だからだ。

つまり、演奏の中身の良し悪しで聴いているというよりは、言い方悪いが、行動経済学で言うところの、己の消費に対しての認知的不協和の単なる解決手段としてヨーロッパピアノトリオを利用しているだけの可能性があるということ。

すなわち、「大金をつぎ込んだオーディオシステムが良い音で鳴ってくれないと困る」という心理的緊張(不協和)を低減してくれる可能性が高いものが、最近の録音の良いピアノトリオだったりするわけで、この不協和が解消されれば、必要以上に好意を持っちゃうわけ。

だとすれば、それは技術偏重&偏向の俄か楽器弾きと同様、オーディオという“ハードのドレイ状態”ということであり、無意識に自分の所有物の性能が、ジャズという芸術行為を捉える尺度になってしまている。

いってみれば、機械が基準の視野狭窄の状態に陥っているということ。

少なくとも、そんな状態な人に、ウイントンの音が冷たいだのよそよそしいとは言われたくないですな。まだ、自分の装置とは相性が良くないから嫌いだと言ってもくれたほうが清々しい(笑)。

あ、別にそれは某マスターのことではありません(笑)。あくまで、一般的なオハナシ、ってことで。

ま、しょーもない話でウダウダしている暇があったら、ブレイキー親爺に煽られて熱いプレイをしているウイントンを聴こう。

この時期の若かりし日のウイントンの演奏はいいですよ。

私はオーディオマニアではないので、オーディオマニアの気持ちはよく分からないのだが、たぶん、配線などでアタマを悩ませるよりは、こういうラッパを「ぷあっ!」と一音吹かれた時の驚きのほうが楽しいだろうということは容易に想像がつく。

記:2007/06/22

album data

ART BLAKEY IS JAZZ (Music Club)
- Art Blakey

1. Moanin'
2. Angel Eyes
3. Free For All
4. Jodi
5. One By One
6. Round 'Bout Midnight
7. ETA
8. Time Will Tell
9. Blakey's Theme
10. My Funny Valentine

Art Blakey (ds)
Wynton Marsalis (tp)
Bobby Watson (as)
Billy Pierce (sax)
Ellis Marsalis (p)
Jimmy Williams (p)
Charles Fambrough (b)

1980/10/11

 - ジャズ