イン・コンサート/マイルス・デイヴィス
2021/02/10
ダルい されど気持ち良い
一言でいうならば、「だるくろ」だ。
『オン・ザ・コーナー』と同時期のライブ、かつ『オン・ザ・コーナー』のナンバーや、『ゲット・アップ・ウィズ・イット』、さらには『ジャック・ジョンソン』からのナンバーが演奏されているが、少なくとも『オン・ザ・コーナー』のようなタイトさ、スピード感は無い。
リズムが微妙にダルく、『オン・ザ・コーナー』に見られる、ビシッと脇の締まったテンションの強さはない。
しかし、しかし、ですよ、このユルさも結構、イイもんじゃないか、と私は思うのですが、いかがでしょう?
スライの『暴動』
というのも、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの沈鬱で、オープンではなく、むしろクローズドなノリがたまらなくファンクで、めちゃくちゃ黒い最高傑作、『暴動』が大好きな私としては、酒飲みすぎて、翌朝、なかなか起き上がれず、重たい頭をひきずりながら、「うーん、この眩しい朝の景色は、黄色い世界。世の中、とっても黄色いの」などと、アル中患者のようなうわごとを発し、朝からなんだか萎えた感じ?
>>ソファが深く深く沈んでゆく音楽~『暴動』スライ&ザ・ファミリー・ストーン
しかも、この萎えた感じも、なんだか悪くないぞ、って堕落感、頽廃的心地よさが決して嫌いではない私は、このようなシチュエーション・気分を代弁してくれるような、まったりと黒いこのアルバムが大好きなのですが、チャカチャカうるさいマイルスの『イン・コンサート』のゆるさ、黒さも、この世界に通じるものがあり、なんだか、妙に胡散臭いB級ブラックミュージックの怪しい香りが、ほああああと漂いまくってるんですね。
乱痴気騒ぎ in フィルハーモニック・ホール
たとえば、ファンカデリック好きが聴けば、「おおお、なんじゃこりゃ、気持ちワル・気持ちイイぞ!」とマタタビを前にした猫のように目を細めるのではないでしょうか?
それにしても、メンバーみんな、いっちゃってるなぁ、楽しそうだなぁ。
困ってるのはきっと、マイルスだけに違いない(笑)。
「あちゃー、エラいことになっちまったなぁ、どう収拾つけよっかなぁ」ってね(笑)。
いや、マイルスも、開き直って、えーい、どうとでもなれ!と、トランペットをワウワウ、ウニョウニョさせていたのかもしれない(笑)。
いや、むしろ呆気にとられていたのは、ニューヨーク、フィルハーモニック・ホールの群衆だったのかもしれない。
そう、ニューヨークのフィルハーモニック・ホールでやったんだよね、この演奏。
大胆不敵というか、なんというか。
聴くよりヤリたい!
これって、きっと、聴いているよりも、演ってるほうが、数倍楽しいタグイの音楽なんだろな。
だって私も参加したいもん(笑)。
いつしか私も傍らにあるベースを持って、マイケル・ヘンダーソンとツインペース。
なーんも考えずに、反復反復、半分トランス、半分覚醒、「さぁ、リーダーよ、この状態にどうオチをつけてくれるんですか?」と、ニヤニヤしながら、ひたすら、低音を旋回させる、無責任グルーヴァーの一員として、マイルス以外のメンバーたちと共犯関係の美しい連帯感を音で交感しあうのでした。
このような妄想を思い浮かべてしまうほど、楽器弾きにとっては、「にひひひひ」と、不気味心地よい笑みを浮かべてしまう要素がいっぱい!
さらに、飲みすぎた朝、やりすぎた朝(笑)を迎えた気だるい心地よさに通ずるダルくて黒いダウナーパワーに満ち満ちた「ダル・黒」な迷演奏集!
生活に、人生に、真剣に向き合うのがカッタルイ人、そういう気分にたまにはなってもイイよね?
そうお考えの方には、真面目におススメしたいですね(笑)。
沖縄で泡盛飲みながら聴きたいなぁ……。
記:2001/02/09
album data
IN CONCERT (Columbia)
- Miles Davis
disc1
1.Rated X
2.Honky Tonk
3.Theme from Jack Johnson
4.Black Satin/The Theme
disc2
1.Ife
2.Right Off/The Theme
Miles Davis (electric tp with wah-wah)
Carlos Garnett (ss,ts)
Cedric Lawson (el-p, syn)
Reggie Lucas (el-g)
Khalil Balakrishna (el-sitar)
Michael Henderson (el-b)
Al Foster (ds)
Badal Roy (tablas)
James Mtume (per)
1972/09/29
Philharmonic Hall in New York
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