タル・ファーロウ・カルテット/タル・ファーロウ

      2021/01/31


Tal Farlow Quartet

33歳のときの初リーダー作

タル・ファーロウがギターを本格的に始めたのは、20歳を過ぎてからのことだという。

それまでの彼は、看板屋さんだった。
看板に文字や絵をペンキで書く仕事をしていたのだ。

働いて貯めたお金で、21歳のときにギターを購入。
そこから彼はチャーリー・クリスチャンを手本に本格的なギターの練習にあけくれるようになる。

約5年後の26歳のときにプロとなり、28歳の時にクラリネット奏者バディ・デフランコのグループに加入。その後、ヴィブラフォン奏者レッド・ノーボのグループのサイドマンを務め、技術と完成を磨き、ようやく33歳のときに初リーダー作をブルーノートに吹き込む。

それが、『ザ・タル・ファーロウ・カルテット』だ。

編成は、もう一人のギタリスト、ドン・アーノンがサポートで加わり、後はベースとドラムスの4人。

ドン・アーノンの的確なサポートを得、決して乱れたりブレたりすることなく、太く豊かな弦の音をしっかりと空間に刻んでゆく。

抑制の効いた禁欲的なムードが漂う演奏が続くが、タルのギターからは、並々ならぬ自信と余裕が滲み出ており、それが決して派手ではないかもしれないが、演奏の表情を豊かなものとしている。

このコク、この味わい。
ギターを手にしてから約12年後の演奏には、初リーダー作にして、すでにベテランの風格が漂っている。

アップテンポの曲でも終始落ち着きを失うことはなく、余裕綽々で安定感のあるフレーズを繰り出しているが、聴き手の注意を喚起し続ける緊張感を損ねることなく、どこまでもクールな佇まいで演奏は進行して行く。

名手、ジョー・モレロ

安定感と緊張感。

ある意味、この矛盾した2つの感覚を違和感なく統合させることに貢献しているのは、ジョー・モレロのブラッシュワークのお陰だろう。

このスピード感と安定感。

特に、《ラヴァー》のブラッシュワークは、まさに名人芸といっても過言ではなく、このリズムがあるからこそ、タルもアーノンも思う存分ギターの弦を鳴らせたに違いない。

さすが、後年、デイヴ・ブルーベックのカルテットで、《テイクファイブ》や《トルコ風ブルーロンド》などの変拍子の曲でも、まったく破綻のないドラミングを平然とやってのけるドラマーのことだけはある。

ジョー・モレロには3人のドラムの師匠がいたようだ。

1人は、ドラム教則本の『スティック・コントロール』を執筆したジョージ・ローレンス・ストーン。

もう1人は、モーラー奏法を開発したサンフォード・モーラー。

そして、3人目は、シェリー・マンも師事していたというビリー・グラッドストーン。ドラムコンテストなどで優勝を飾るドラマーの多くが、グラッドストーンが開発したグラッドストーン奏法でのドラミングだという。

もっとも、このアルバムでのモレロは、派手なドラミングはしていない。しかし、派手な技に頼らずとも十分に共演者を鼓舞し、演奏のクオリティを底上げしていることは、お聴きになればすぐに気がつくことだろう。

名手たちが繰り広げる、一聴、淡々としているようでありながらも、その実、いぶし銀のような味わいを持つ演奏を心行くまで堪能していただきたい。

記:2019/04/06

album data

THE TAL FARLOW QUARTET (Blue Note)
- Tal Farlow

1.Lover
2.Flamingo
3.Splash
4.Rock 'N' Rye
5.All Through The Night
6.Tina

Tal Farlow (g)
Don Arnone (g)
Clyde Lombard (b)
Joe Morello (ds)

1954/04/11

YouTube

動画でもこのアルバムの魅力を語っています。

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