ニュー・アドヴァンスト・ジャズ/ヴァルド・ウィリアムス
2021/12/11
動画レビュー
さながら暴走特急
ジャケットに騙されてはいけない。
いや、このアルバムを出したサヴォイは、騙すつもりはなかったんだろうけど。
しかし、なにしろ、このヴァルド・ウィリアムスのジャケットのポートレイトだ。
なにか立派な黒人政治家、もしくは医師、もしくは教授に見えなくはないだろうか。
ジャズマンだとしたら、ジュニア・マンスやエリス・マルサリス風のピアニスト。
ブルージーなテイストを上品に弾きこなす人に見えてこないか。
あるいは、ビリー・テイラーのように博士号を持っているジャズピアニストのように見えなくもない。
いずれにしても、ジャケ写が醸し出す雰囲気は、落ち着いた演奏が信条のピアニストがリーダーのピアノトリオアルバムに見えてしまう。
ところが、とんでもないんだなぁ。
まさに、ジャケットのイメージと、演奏内容が乖離しているという良い例だと思う。
とにかく凄いんですよ。
まさにフリージャズのお手本のような(?)ピアノといえる。
とにかく、高速かつ縦横無尽に鍵盤を乱舞しまくる指は、セシル・テイラー的でもあり、山下洋輔的でもあり、我々が一般的に抱く「フリージャズのピアノって、だいたいこんな感じ」の「だいたいこんな感じ」を見事なまでに体現しているのだ。
しかし、セシルとも山下とも違うところは、両者がかなでるリズムはかなり柔軟性と緩急があり、早くなったり遅くなったりと、強くなったり弱くなったりと、演奏に物語があるとしたら、そのストーリーテリングに緩急がある。
それに対して、ヴァルド・ウィリアムスが奏でるピアノは、とにかく一直線。
メリハリも緩急もなく、とにかく、今、突っ走りまくらないと死んでしまうという思いを抱いているかのような切迫感がある。
なので暴走超特急。
しかし、この暴走っぷりからほとばしるムードは、どこかしらビ・バップの香が漂う。
特に、絶頂期のバド・パウエルが『ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル』で突っ走りまくった超特急ピアノを思わせる瞬間が出てくるので、単にドシャメシャなフリージャズというよりも、ビ・バップの延長線上に行き着いたスタイルとして聴こえなくもない。
もちろん、弾かれている内容は、ビ・バップ的フレーズではなく、あくまで演奏から発散されるイメージではあるのだけれども、それでもバップとフリーは似て非なるものではなく、ちゃんととこかで繋がっているものがあるのだなと思わせてくれる。
とにかく、このエネルギーと疾走感は異常だが、聴いてて爽快。
幻のピアニストだそうだが、たしかに幻で終わってしまうほど一般大衆は受け入れ難い表現でもあり、あまり録音のチャンスがなかったのかもしれない。
しかし、このエネルギッシュな演奏は一度聴いたら忘れられないインパクトだ。
ヴァルド・ウィリアムスが考える「新しく進んだジャズ」は、これ以上突き進むと、もはやカオスそのものになってしまうだろう。
「フリージャズ」という一言ではくくれない、とにかくぶっ飛んだピアノトリオです。
記:2019/12/22
album data
NEW ADVANCED JAZZ (Savoy)
- Valdo Williams
1.Desert Fox
2.Bad Manners
3.Move Faster
4.The Conqueror
Valdo Williams (piano)
Reggie Johnson (bass)
Stu Martin (drums)
1966/12/20