ページ1/ジョージ大塚
レトロなジャケ写
ジャケットで買ったアルバムだ。
一言でいえば、ものすごくレトロ。
こういっちゃ失礼かもしれないが、ジャケ写のキマリ過ぎた構図と、漂ってくるわざとらしさが、とてもイナタい感じがして笑えたのだ。
自分が生まれる前に出たアルバムなので、当時の日本の人々が感じていた「カッコ良さ」というものは、実感としては理解出来ないのだけど、きっと、こういうファッションや髪型がカッコ良かったのかな、と漠然と思わせるようなジャケット写真なのだ。
うん、昭和のニッポンだ。
ブルーノートやプレスティッジのジャケットや、イマドキのデザインに慣れてしまったセンスからしてみれば、絶対にありえないような雰囲気。
当時はこういうファッション、構図、色使いがカッコ良かったのかな?と思わせる、ちょっとレトロな香りの漂う写真は、「今」の目から見ると、なかなか刺激的だった。
写真の構図が面白い
このジャケ写、スタジオで撮影されたものだと思うが、背景の色がビリヤード台のラシャ布をさらに濃くしたような緑色の背景で、この色合いも、なかなかに昔っぽくてレトロなテイストが漂っている。
うーん、いい感じだ。
ピアニストが椅子に座り、雑誌を興味深げな目付きで読んでいる。
本当は興味なんて無いんだろうけど、興味あり気な表情を一生懸命しているかのような固い表情が微笑ましい。
その雑誌を「どれどれ?」と柔和な表情で覗き込んでいるジョージ大塚。
彼の足元には、バスドラなどのドラムを収容するハード・ケースが置かれている。
いや、ただ置かれているのではなく、恐らく綿密な構図を計算した上でのレイアウトなのだろう。
いかにも、私はドラマーですよ、といった演出が微笑ましい。
さらに、ベーシストも遠くから雑誌を覗き込んでいるが、「私はベーシストなんです」と、ビジュアルで説明するかのように、ソフトケースにしまわれたウッドベースをかつぎながら雑誌を覗きこんでいる。
要は、「トリオのメンバーみんなが雑誌を覗きこんでいる」写真なのだが、カメラの構図といい、小道具の配置やアングルといい、メンバーの表情やポーズといい、すべてが、計算され尽くした感じの漂うジャケットが、とてもワザとらしく、かつ新鮮に感じたので、思わず購入してしまったのだ。
正直、買ってから自宅で聴いてみるまでは、中身の演奏の内容にはまったく思いを巡らせなかった。
「冷やかし気分で」というのが正直なところだったからだ。
イナタいジャケットのアルバムが、B級テイストが好きな私の琴線に触れたということだけが、購買の動機だった……。
ところが、ところが。
ジャケットの雰囲気に反して(失礼!)、内容はなかなか良いのだ。
練習なしでこの一体感
ドラマーのジョージ大塚がリーダーのピアノトリオ。
ピアノが市川秀男で、ベースが寺川正興。
彼らトリオの第1作が、本作『ページ1』だ。
ライブの雰囲気を出すために、ファンをスタジオに集めて演奏を収録したという。
なんだかエリック・ドルフィーの『ラスト・デイト』や、キャノンボール・アダレイの『マーシー・マーシー・マーシー』のような録音方法だが、『ラスト・デイト』のまばらな拍手から漂う「擬似ライブ臭さ」はなく、本当にエキサイティングなライブを聴いている気分になる。
内容は一言、「素晴らしい」。
アンサンブルもノリも、ビシッと決まっている。
だからといって、生真面目にセコセコ演奏しているというわけでもなく、思いっきりの良い演奏だと思う。
ベースの安定感はバツグンだし、軽快で粒建ちの気持ちよいピアノも心地よい。
また、ジョージ大塚の、臨機応変なドラミングを聴くと、とてもしなやかな感性の持ち主なのだということがよく分かる。
レギュラー・バンドならではの一体感も感じられ、演奏の中に綻びのようなものは無い。
相当に練習を重ねてきたのだろうなと思いきや、ライナーを読むと、意外なことに、彼らジョージ大塚トリオは、結成以来一度も練習をしたことがないのだという。
緊張感や、演奏に対しての柔軟性を重視しているようなのだ。
ただし、トリオを結成した66年3月以来、新宿にあった「タロー」というジャズ喫茶を拠点として、レギュラー出演を長期間にわたって続けていたというから、この一体感と勢いは、ライブの現場で培われたのだろう。
「本番」が「練習」だったというわけだ。
ニッポントリオのモード曲
全体的には、なかなかモダンでイキな演奏が続く。
冒頭のタイトル曲『ページ・ワン』を聴いた瞬間からスピーカーに耳が張り付いた。
エキサイティングな演奏の中、ピアノのフレーズから、マイルスの《ソー・ホワット》や、コルトレーンの《インプレッションズ》で聴いたことのあるようなフレーズが幾つか出てきたので、「おや?」と思ってベースラインを追いかけてみると、なるほど、ドリアン・スケールを元に作られたモード曲だったのね。
つまり、《ソー・ホワット》や《インプレッションズ》と同じく、AメロのコードがDm7で、それに対応するドリアン・スケールでアドリブを奏でる奏法。
もっと簡単で乱暴なこと言っちゃうと、左手は「レ・ファ・ラ・ド」を押さえて、右手は白鍵のみでアドリブをすれば、「モード奏法っぽく」なるし、素人でもそれっぽい雰囲気が出せる。
しかし、逆に言うと、素人でも簡単に雰囲気が出せるということは、難しいということでもあるのだ。
演奏者それぞれの独自性を出し、なおかつ「聴かせる」内容でアドリブを奏でなければ、プレイヤーにとっては意味がないし、聴いている方だって、つまらなく感じてしまうからだ。
しかし、そこはさすがにピアノの市川秀男。
たしかに聴き覚えのあるフレーズは散見されるものの、決して単なる「パクリ」には終始せず、彼ならではの個性を出しているし、軽妙なタッチで、生き生きとしたアドリブを展開している。
このパラパラとしたピアノの旋律の流れ具合が、とても気持ちがいい。
メリハリのある演奏と選曲
2曲目の《バイ・バイ・ブラックバード》。
個人的には、マイルスのバージョンが頭にこびりついて離れないのだが、それとはまったく趣きを異にする、ほぐれた雰囲気の演奏も悪くない。
長めのベース・ソロも、聴き応え充分だ。
サクサクと演奏されるパーカーの《ブルース・フォー・アリス》は、ちょっと速めのテンポ。
ツルツルすべってゆくような感じの演奏を聴くと、個人的には、やっぱりパーカーの演奏の方がいいや、と思う。
演奏自体は、とても生き生きとているのだが。
ボサ・バージョンの《春の如く》、ジャズロック調の《ポテトチップス》と、4ビート以外のリズムを配することで、アルバムの流れにメリハリをつけているところもニクイ。
特に《ポテトチップス》という、ジャズロック風の曲は、ピアノトリオで演奏されているせいか、ラムゼイ・ルイスの《ジ・イン・クラウド》を思い出してしまった。
アルバムの中間と締めに、このトリオ・オリジナルの短いテーマを挟むところなどは、マイルス・クインテットの「ザ・テーマ」を思い出すが、アルバム全体の流れにメリハリをつけるのにも一役買っていると思う。
このアルバム丸々1枚を、まったく飽きることなくサラッと聴けてしまうのは、流れのある内容に仕上がっているからだと思う。
キチンとした曲の配分と、選曲の良さからくる申し分の無い「流れ」。
そして、小気味よくまとまった演奏。
このトリオは、まとまった感じに落ち着くのがイヤで練習をしなかったようだが、私には、非常に良くまとまったアンサンブルに聴こえる。
ゲップが出るほど深くて濃い内容とは言いがたいが、腹八分目で気軽に楽しめるアルバムだ。
そして、腹八分目で楽しめるアルバムこそ、日常的に聴く機会が多くなるのだ。
ジャケットの「濃さ」には、ゲップが出るかもしれないが……(笑)。
記:2002/03/30
album data
PAGE 1 (Takt Jazz)
- ジョージ大塚
1.Page 1
2.Bye Bye Blackbird
3.Theme
4.Blues For Alice
5.It Might As Well Be Spring
6.Potato Chips
7.Theme.
ジョージ大塚(ds)
市川秀男(p)
寺川正興(b)
1967/10/14