パーフェクト・マシーン/ハービー・ハンコック
2021/02/02
エレクトリック処女航海
一般にはエレクトリックな《処女航海》が聴けるということで有名なアルバムなのかもしれませんが、それだけではないのだよ。
もちろん、生身の美女が、アンドロイド美女となって蘇生した感じの《処女航海》も、それはそれで面白いアレンジではあるんだけれど。
フェアライトCMI
このアルバムの第一印象。
まずはメタリックで硬質な音色にゾクっときますね。
先述した《処女航海》のリメイクナンバーは《ピー・バップ》という曲なんですが、「ビー・バップ」の「ビ」ではなく、まさに「ピ」の音の触感が似合うツルッとメタリックな感触の音色のオンパレードなのです。
これ、当時流行りはじめた、オーストラリア製の新しいシンセ、フェアライトCMIが得意とする音色なんです。
坂本龍一もこれが出始めた時は積極的に活用していましたね。
モリサ・ファンレイのダンスナンバー『エスペラント』や、トーマス・ドルビーとのコラボ作品『フィールド・ワーク』なんかにね。
フィールドワークのオケで聴くことができるメタリックな音色、これはもうフェアライトでしか出せない音色でしょう。
Field Work + Steppin in Asia + Arrangement
そして『エスペラント』!
これは私が今でも大好きなアルバムで、あの挑発的な音の勢いと音色は、今聴いても抜群に新鮮なのです。
特に、実際のダンスの映像と一緒に聴くと、背中がゾクゾク鳥肌が立ちまっせ。
まさにデジタル民族舞踊ですね。
滅茶苦茶かっちょいい!
上記映像の音源は、アルバムに収録されている演奏よりも、より一層アグレッシブな音が重ねられていてカッコ良いです。
いずれにしても、これらのサウンドは、フェアライトがなければ絶対に成しえなかったサウンドです。
さらに、その後の教授(坂本龍一)の作品、7枚目のソロアルバムの『ネオ・ジオ』でもフェアライトは大活躍していましたね。
ビル・ラズウェル
そうそう、『ネオ・ジオ』。
『パーフェクト・マシーン』がリリースされる1年4か月前にリリースされた『ネオ・ジオ』にも、プロデューサーとしてビル・ラズウェルが参加しています。
NEO GEO(紙ジャケット仕様)(初回生産限定盤)(DVD付)
音楽の内容はまったく違うにもかかわらず、両アルバムの音の感触に同質なものを感じるのは、フェアライトを使用していることに加えて、「ビル・ラズウェル効果」もあるのでしょう。
さらに両アルバムともにベースでブーツィ・コリンズが参加していることも大きいでしょうね。
いやはや、目眩がするほどぶっといウネリですよ、ブーツィのベースは。
沖縄とクラシックとイギー・ポップと無国籍音階の要素が散りばめられ、ある意味ゴッタ煮かつ、音の奥には繊細な柔らかさが見え隠れする教授の『ネオ・ジオ』。
それに対して、ハンコックの『パーフェクト・マシーン』は、どこまでもタフで剛腕。
容赦なくソリッドです。
このあたりが、「クラシック、ジャズを経由し、デジタル楽器を駆使する鍵盤弾き」という共通点がありながらも、日本人と黒人の「腕力」みたいなものの差は感じてしまいますね。
使用楽器、プロデューサー、ベーシストが同じであっても。
もちろん、硬質なようでいて「柔らか」な『ネオジオ』も大好きなアルバムではありますが、時として、この「柔らかさ」が排除され、徹底的にタイトでソリッドなフェアライト・サウンドが聴きたくなったら、これはもう『パーフェクト・マシーン』しかあり得ないわけで。
つんのめる感じのノリ、容赦ないほどのソリッドな感触。
かなり暴力的に頭脳と身体を直撃してくれます。
人によっては、アルバム全体を彩るサウンドは、「時代の音」に感じてしまうかもしれないけれども、構築された世界観と高い音楽性ゆえ、それほど古く聞こえないんだなぁ。
個人的な愛聴ナンバーは《ケミカル・レジデュー》ですかね。
インパクトという点では、他のナンバーよりは劣るかもしれないけれども、鋭角的なエレクトリックな楽器が醸し出すアンニュイなニュアンスがとても心地よいのです。
映画のBGMにもなりそうですね。
雨の日の午前中に聴くと、気だるい気分が増幅されて、その日一日の「やる気」がどこかに持っていかれてしまうので要注意ナンバーかも。
ま、長い人生、そのような日があったって良いとは思うんですが。
記:2016/05/17
album data
PERFECT MACHINE (Columbia)
- Herbie Hancock
1.Perfect Machine
2.Obsession
3.Vibe Alive
4.Beat Wise
5.Maiden Voyage/P. Bop
6.Chemical Residue
7.Vibe Alive (Extended Dance Mix)
8.Beat Wise (12-Inch Edit)
Herbie Hancock: p, Fairlight CMI Series I & II, Rhodes Chroma, Apple/Mac Plus,Yamaha DX1,Yamaha DX7 and DX7IIFD, Kurzweil K250, Yamaha TX816,Oberheim Matrix-12,Akai S900, vocoder
Jeff Bova:synth programming
William "Bootsy" Collins:elb, vocoder
Sugarfoot:vo
Nicky Skopelitis:Fairlight ds
Micro Wave: Minimoog bass,talk box, vocoder
D.S.T.:turntables, "FX"
1988年