バド・パウエルが弾く《アイ・リメンバー・クリフォード》

      2017/05/30

old clock

ゴールデン・サークルの第三集

バド・パウエルの『アット・ザ・ゴールデン・サークル』は、第1集から5集までが出ているが、演奏はどれもが良くて、甲乙つけがたい内容だ。

ただ、強いて好きなものを1枚だけ挙げるとするならば『vol.3』が好きだ。

理由は、長尺演奏の《スウェディッシュ・ペイストリー》が大好きなことと、超スローなテンポで演奏される《アイ・リメンバー・クリフォード》が収録されているからだ。

《アイ・リメンバー・クリフォード》を聴いている間は、まるで悠久の時間の中を漂っているようだ。

よく聴くと、パウエルのピアノのタッチはかなり荒いし、リズム陣も雑で、ツメの甘い箇所が目立つ。

しかし、それは些末な問題だということに気付くのにも時間はかからないだろう。

それらの「欠点」をもひっくるめて、強引に我々を「世界」に引き込んでしまう磁力が、この演奏には宿っている。

パウエルはある意味「耳の強姦者」だ。

1曲目の《スエディッシュ・シュナップス》も、彼のピアノが持つ「強さ」を知るにはもってこいの演奏だろう。

次から次へと湧き出てくる旋律に否が応でも耳が吸い寄せられてしまうのだ。

18分以上の長尺演奏ではあるが、退屈と感じさせる瞬間が一瞬もない。

それどころか、特に演奏中に大きなシカケや山場も設けず(ベースのランニングソロらしい箇所が少しあるが)、ただ淡々と、ピアノのソロだけを延々と、ピアノ・トリオの編成で聴かせきってしまう力量。

やはりパウエルというピアニストが放つ音の凄み、存在感はタダモノではないということを思い知ることが出来る1枚が『ゴールデン・サークル』の第3集なのだ。

記:2002/02/21

album data

AT THE GOLDEN CIRCLE vol.3(Steeple Chase)
- Bud Powell

1.Swedish Pastry
2.I Remember Clifford
3.I Hear Music

Bud Powell (p)
Torbjorn Hultcrntz (b)
Sune Spangberg (ds)

1962/04/19,Stockholm

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