リラクシン/マイルス・デイヴィス
不安定なコルトレーンも、ある意味スパイス?
《イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー》のコルトレーンのソロがひどい。
まだまだベテランの粋に達していない時期のジョン・コルトレーン。
この曲をどのようにアプローチしたいのか。演奏に対しての明確な意思が感じられないまま、ただフガフガと同じ音域ばかりを彷徨っているように感じられてならない。
起承転結がハッキリしないアドリブのまま、聴き手、いや、少なくとも私を不安定な気分にさせる。
あのコルトレーンでさえも、下手だった。
いや、ヘタというよりも、この時期のコルトレーンは、自分の内部にある表現欲求をどのような形で、具体的な音として昇華させるのかが、明確に定まっていなかったのかもしれない。
楽器を操るテクニック的な面というよりは、自分の技術と、表現に対する意思の折り合い(もっとも広義では、それもテクニックなのだが)がつかないとでも言うべきか。
そんなコルトレーンの葛藤ぶりが《イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー》のアドリブからは伺える。
しかし、だからといって、私はこのアルバムが嫌いかというと、そんなことはなく、プレスティッジの『~ing』シリーズの中では、『クッキン』に次いで好きなアルバムだ。
何が良いかというと、ムードが良い。
どこまでが演出なのかは分からないが、冒頭の「曲名は後で言うよ」というマイルスの思わせぶりなアナウンスや、ラストの「もう1テイク録るかい?」といった会話。
そして、レッド・ガーランドがシングル・トーンでイントロを弾き始めると、口笛でそれを制して、ブロックコードに弾きなおさせるところ。
これらのさり気ないやり取りが、非常にアルバムのムードを高めているのだ。
また、ピリッと抑制の効いたマイルスのミュート・プレイを楽しむのにはもってこいの内容でもある。
《ウッディン・ユー》を除けば、マイルスはすべてミュートで吹いている。
《オレオ》のようなアップテンポから、《ユー・アー・マイ・エヴリシング》のスローバラードまで、彼のデリケートで、そして、突き刺すように鋭いミュート・プレイは絶品。そして、マイルス奏でるバラードは、いつだって辛口だ。
ゴキゲンにスイングする快調なレッド・ガーランドのピアノも素晴らしい。
特に、《イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー》のピアノソロが、トレーンのソロの後だけに、なおさら良く聴こえる。
これらのアルバムのこれらオイシイ要素は、夢遊病者のように行き先の分からない彷徨えるコルトレーンのプレイを補って余りあるものだ。
マイルスのデリケートなプレイと、ガーランドの小粋でノリの良いピアノを味わうためのアルバム。
そして、彼ら二人の良さを引き立てているのが、実はコルトレーンの行き場所の定まらない不安定なテナーサックスなのかもしれない。
記:2002/11/28
album data
RELAXIN' (Prestige)
- Miles Davis
1.If I Were A Bell
2.You Are My Everything
3.I Could Write A Book
4.Oleo
5.It Could Happen To You
6.Wooy'n You
Miles Davis (tp)
John Coltrane (ts)
Red Garland (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
1956/05/11 & 10/26