春眠暁を覚えずにペッパー
text:高良俊礼(Sounds Pal)
ザ・リターン・オブ・アート・ペッパー
「生活が朝型になってきた!」と、調子に乗っていたが、ここんとこどうも寝起きが悪い。
寝る時間はいつもと変わらないが、目が覚めても頭が重たくてボーッとなり、結果二度寝三度寝をやってしまう。「シャキッとせにゃいかんなぁ・・・」と思いつつも、である。
今の私には心地よく目覚めるためのBGMが必要だ。
そんなわけで試行錯誤の末に、思い出したのがアート・ペッパーの『ザ・リターン・オブ・アート・ペッパー』。
その昔「初ジャズ」という電子書籍を書いた時に「朝聴くジャズは?」というお題でエッセイを買いた時にセレクトした一枚だ。
>>初ジャズ
朝ジャズ
ペッパーのカラッとしながらもどこか憂いを帯びた音色と、ジャック・シェルドンの明るくメリハリの効いた品行方正なトランペットがフロントで繰り広げる、上質な歌のようなプレイと、堅実さの中に光るセンスのよさを散りばめた、ラス・フリーマン率いるリズム・セクションの大人のバッキングは、いつ聴いてもやっぱりいい。
CDのスタートボタンを押してほんの数秒後に、空間いっぱいに広がる爽やかで甘酸っぱい空気。
ジャズといえば“夜”を連想する方も多く、実際私もジャズが醸し出す“何とも夜な空気感”は大好きだし、それ無しにジャズは成立しないとは思うが、このアルバムのように、朝から嫌味なくしっくりくるのもあったりする。
刑務所からリターン
さて、この『ザ・リターン・オブ・アート・ペッパー』は、そんな爽やかかつ健康的なサウンドからは想像も付かない製作秘話がある。
実は札付きの麻薬常習者であったペッパーは、ソロ・デビューして「いよいよこれから!」という1954年に、麻薬使用の罪で逮捕された。
しかし、演奏はもちろん、ハリウッド・スター顔負けのルックスで全米のファンのハートを打ち抜いたペッパーを、ファンは待っていた。
で、2年間の服役を終え、シャバに戻ってきた直後にこのアルバムを録音している。
もうお分かりだろう、タイトルの「リターン」は「刑務所から帰って来た」という意味なのだ。
健全な日本人男性が「朝の目覚めに最適だな~」なんて脳天気に聴いてる作品に、そんなミもフタもないエピソードがくっついてるってのが何とも凄いが、こんな素晴らしい名盤が今どき税込みで¥1000ちょいで買えるということの方が凄いなと、寝起きの頭でぼんやり思うのだ。
記:2015/03/28
『奄美新聞』2011年4月23日『音庫知新かわら版』記事を一部加筆/訂正
●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル)