サッチモのトランペットは、やっぱり深い。
サッチモことルイ・アームストロングは、ジャズに興味を持っていない人の間でも、もっともポピュラーなジャズマンだろう。
《この素晴らしき世界》や《ハロー・ドーリー》などの、心温まるダミ声ヴォーカルは、きっと多くの人が耳にしていることと思う。
だから、彼のことをヴォーカリストだと思っている人も中にはいるんじゃないかな?
(さすがに、このblogの読者にはいないか)
当然ながら、彼はトランペッター。
ザ・ドリフターズがお笑いの集団以前にバンドだったように、
サッチモもヴォーカリスト以前に優れたトランペッターだったのだ。
もちろん、彼のヴォーカルも素敵だけれども、それ以上に彼のトランペットは素晴らしい。
張りのあるたくましい音色。
シンプルながらも力強いメロディ。
まるで楽器そのものに生命が宿ったかのごとく、生き生きとした躍動感に満ち満ちている。
ラッパ一本で、ここまで懐の深い表現を出来る人は、ジャズ界広しといえども、サッチモただ一人だろう。
『プレイズ・W・Cハンディ』の1曲目、《セントルイス・ブルース》を聴くたびに私はその思いを強くする。
このアルバムは、その名のとおり、サッチモがウイリアム・クリスティ・ハンディの作品を歌い、演奏した作品。
ハンディという人物は、ブルースの採譜と作曲を生涯を捧げ、ブルースの魂を現代に伝承させようとした功労者。
その功績から「ブルースの父」と呼ばれ、彼の書いた楽曲は多くのミュージシャンに愛され、演奏された。
サッチモが彼の作品を演奏したこの作品を聴いたハンディは「自分の作品をこれ以上素晴らしく演奏した人はいない」と涙を流してルイを称えたという。
この『プレイズ・W・Cハンディ』は、どの演奏も良い。素晴らしい。
しかし、なんといっても冒頭を飾る《セントルイス・ブルース》こそが、
このアルバムを代表する名演奏と呼ぶに相応しいと思う。
エキゾチックなムード、喧騒と倦怠感に満ちた港町・セントルイスの息遣いが、リアルに伝わってくるようではないか。
彼のトランペットからは、時代やスタイルを越えて、21世紀になった今もなお聴く者の心を捉えて離さない、生命力に漲っているのだ。
たまにサッチモを聴くと、そのトランペットの表現力の深さに唖然とする私でありました。
記:2017/10/10